日本海軍は素晴らしかったという幻想の崩壊・・・【山椒読書論(16)】
【amazon 『日本海軍はなぜ過ったか』 カスタマーレビュー 2012年3月10日】
山椒読書論(16)
『日本海軍はなぜ過ったか――海軍反省会四〇〇時間の証言より』(澤地久枝・半藤一利・戸高一成著、岩波書店)には、驚くべきことが書かれている。
第1は、第二次世界大戦の敗戦後35年を経て密かに始められた「海軍反省会」という秘密の会合が存在したこと。
第2は、この部外者に公開されることのなかった会の内容が、録音テープ(400時間分)に記録されていたこと。そして、これらのテープが現在まで奇跡的に保存されており、今回、公開に至ったこと。
第3は、日本海軍のトップ・エリートたちが何の長期展望も戦略もなく、闇雲に戦争に突き進んでいったことが、この録音テープで明らかになったこと。陸軍に比し、海軍は論理的、合理的だったという幻想が崩壊してしまったこと。
第4は、日本海軍が、勉強を怠らず、大局観を備えた真に優れた人材――例えば、堀悌吉、井上成美など――を組織の中枢から排除するという愚策を弄し続けたこと。残念ながら、同様なことは、現在のさまざまな組織でも巧妙に行われている。
第5は、「海軍反省会」のメンバーであるエリートたちの誰もが、自分の部下である兵士たちの命を奪う無謀な作戦に対し、何のためらいも持たず、反省もしていないこと。澤地も半藤も戸高も、このことに怒りを顕わにしている。
日本海軍は素晴らしかったという幻想を抱いている人は、この本で目を覚ましてほしい、また、現在の組織や企業の責任者は、この本から組織のあり方を学んでほしい――これが著者らの切なる願いだろう。