夜は若く、彼も若かった。が、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その222)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(309)】
【読書の森 2024年9月20日号】
あなたの人生が最高に輝く時(309)
●『幻の女』(ウィリアム・アイリッシュ著、稲葉明雄訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)
「夜は若く、彼も若かった。が、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった」という洒落た文章で始まる『幻の女』(ウィリアム・アイリッシュ著、稲葉明雄訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)は、江戸川乱歩に「世界十傑に値す。不可解性、サスペンス、スリル、意外性、申分なし」と絶賛された本格ミステリの傑作。
不快な気分で、ただ一人、街をさまよっていた彼は、バーに立ち寄ったとき、奇妙な燃えるようなオレンジ色の帽子をかぶった女に出会う。レストラン、劇場、バーで一緒に時間を過ごして帰宅すると、喧嘩中だった妻が彼のネクタイで絞殺されているではないか。死刑執行日が刻々と迫る中、唯一の証人であるオレンジ色の帽子の女は見つかるのか。
映像で楽しむには、DVD『幻の女』(ロバート・シオドマク監督、フランチョット・トーン、エラ・レインズ出演、ジュネス企画)がある。