榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

金も家も車も、他人より多く持つと管理が大変だ。ときには持て余すものだよ。富豪の伯父は言って、葉巻を手にしどけなく五本脚を組んだ。・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3463)】

【月に3冊以上は本を読む読書好きが集う会 2024年10月2日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3463)

ハシボソガラス(写真1~3)が堅い実を割ろうと、堅い物にぶつけています。オオカマキリ(写真4、5)をカメラに収めました。ヒガンバナ(写真6)が咲いています。

閑話休題、私は文章に拘るほうだが、『三行怪々』(大濱普美子著、河出書房新社)には目を瞠りました。たった3行(約60字)で、これほど豊饒な、かつパンチの利いた世界を表現できるとは!

●ネコヤナギとネコジャラシとネコイラズは相互的協
力関係を樹立し、今後は一丸となって仮想敵に立ち向
かう主旨の声明を発表した。

●この壁の上に見える光が、きっと出口だ。足場を探
してよじ登りながら、始めたときは、画面の外から操
作していたのに、と首を傾げる。

●両親とスカイブで話していたら、画面がフリーズし
てしまった。仕方がないので訪ねて行くと、二人とも
フリーズした姿勢で固まっていた。

●ちょっとそこまで。そう言って出かけたまま、どう
して戻って来ないのだろう。支度しておいた食事も古
び、考古学者が発掘に来た。

●現在流行中のウイルスは、突然変異の危険性が非常
に高い。ゆめゆめ警戒を怠らぬように。記者会見で、
液化した国家元首がそう述べた。

●金も家も車も、他人より多く持つと管理が大変だ。
ときには持て余すものだよ。富豪の伯父は言って、葉
巻を手にしどけなく五本脚を組んだ。

●うちでは、夢に貯蔵タンクを使っている。溜まって
しまった夫の分を、久しぶりに放出したら、悪夢ばか
りがぞろそろと出てきた。

●今夜は二人でオペラに行くのだが、妻の化粧は時間
がかかる。やっと眉毛を描き終わって、これから両目
を描くところだ。

●旅行に行きたいなと思うと、格安チケットの広告が
届く。そろそろ別れたいなと思うと、さっそく毒薬の
見本が送られてくる。

●食べだめの後は、何と言ってもやっぱり寝だめだね。
と、健やかな眠りに就いた夫は、一年経ってもまだ目
覚めない。

●二歳の息子と遊ぶ。いないいないばー。そら、やっ
てごらん。イナイイナイバー。両手を広げると、顔が
ない。

●遊園地に、「真実の口」のレプリカがある。嘘つき
が手を入れると、噛み取られると言う。ためしてみよ
うとしたが、前のがつかえていて、入らない。

●なにやら扉の向こうが騒がしい。カクメイだ! 冷
蔵庫を開けると、溢れ出るアルファルファの群れが、
しぼんだ秋茄子を引っ立てていた。

●宴席で誰かが、座敷童がいると言い出す。念のため
に数えてみたが、予定通りの人数だ。気がついたら、
自分を数え忘れていた。

●押し入れの戸を開けると、今日もいる。正体は不明
だが、食べ物の好みは共通だ。隅に置いておいたチー
カマがなくなっている。

●市立図書館に行くには、駅前から循環バスが出てい
る。もう半日乗っているのにまだ着かないのは、路線
が螺旋状になっているからだ。

●ずっと昔に撮ったビデオテープが見つかった。再生
できるのかと巻き戻してみたら、画質は悪いが、ちゃ
んと前世まで映っている。

●向かいの家にも、地下室があるらしい。地面すれす
れの窓から鉄格子越しに、自分とそっくりの人が、閉
じ込められているのが見える。

●虫が床を這っている。幻覚だから、退治できない。
どうしようかと思ううちに自分が虫になって、どうしよ
うと思う自分に見下ろされている。

●あの角の家には、表札がない。窓もなく、どうやら
玄関も入口もないらしくて、中の住人には名前も顔も
ないという噂を聞いた。

●そういえば、この間どこそこで、君を見かけたよう
な気がするな。そう言われるたびに、鏡の中の自分が
薄く儚くなっていく。

とかく文章が長くなりがちな私は、脱帽!