「蝿の王」とは、いったい何者なのか・・・【山椒読書論(46)】
【amazon 『蝿の王』 カスタマーレビュー 2012年6月29日】
山椒読書論(46)
『蝿の王』(ウィリアム・ゴールディング著、平井正穂訳、新潮文庫)は、かなり以前から読まねばと思いながら、果たせずにきた本である。
ジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』の系譜に連なる作品ということを知ったら急に読みたくなり、一気に読んでしまったが、これは少年のための物語なのか、大人のための文学なのか、未だに判然としない。著者のゴールディングが1983年にノーベル文学賞を受けたことは、はっきりしているが。
近未来に起こった世界大戦のさなか、英国から疎開する少年たちを乗せた飛行機が敵の攻撃を受け、南太平洋の孤島に不時着する。大人のいない環境の中で、6~12歳の少年たちは選挙で隊長を選び、狩猟隊や、救助を求める烽火(のろし)の番をする係など、それぞれの役割を決め、生活のルールを定めていく。
豊富な食料に恵まれ、野生の豚が棲息する楽園のような島で、島内の探検に精を出すなど、当初は秩序ある平穏な生活を送るが、次第に、激しい内部対立が生じ、殺伐とした陰惨な殺戮へと駆り立てられていく。
海からやってきたのか、空からやってきたのか、闇に潜む得体の知れない「獣」の存在。少年たちは恐怖心に襲われ、狂気に囚われていく。
そして、「蝿の王」とは、いったい何者なのか。
やがて、少年たちの内面にも「獣」が巣くっていたことが明らかになる。
この作品は、人間の内なる暗黒をえぐり出すことによって、人間のあり方を問おうとしているのかもしれない。