榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

鳥類は低酸素時代を生き延びた一部の恐竜の子孫だった・・・【山椒読書論(118)】

【amazon 『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 カスタマーレビュー 2012年12月12日】 山椒読書論(118)

恐竜はなぜ鳥に進化したのか――絶滅も進化も酸素濃度が決めた』(ピーター・D・ウォード著、垂水雄二訳、文春文庫)には、生物の進化に関する常識を覆す研究結果が記されている。

本書の要旨は、「歴史を通じての大気中の(ひいては海中の)酸素濃度の時間的変化が、地球上の動物の性質、すなわち、形態および基本的な体制(ボディ・プラン)、生理、進化および多様性を決定するもっとも重要な要因であった。この仮説は、地球上の動物の歴史を彩るあらゆる大規模な適応ないし新たな工夫に、酸素濃度が影響を与え、酸素濃度が進化的な新種誕生、絶滅、および動物の体制の構築を指令したことを意味する」という刺激的なものである。

こうした地球の大気についての新しい発見は、リチャード・ドーキンス(『祖先の物語』)、リチャード・フォーティ(『生命40億年全史』)らの最新の生命史さえも時代遅れにしてしまいかねないと、意気軒昂である。

「実際に進化的な変化の刺激となったのが酸素量の変化であることはまだ実証することはできていないが、あらゆる動物にとっての呼吸の重要性をよく理解すれば、酸素の値の変化が実際に主要な刺激であったという推測が導かれる」というのだ。

「低酸素の時期は生物の多様性の低い時期と相関しているように思えるのに対し、体制の根本的な飛躍的発展をもたらす過程については、高い関連性があるように思われる。低酸素の時代は少数の種しかいないかもしれないが、高い異質性――異なった体制をもつ生物の数――を示すように思われる。カンブリア紀爆発はそのような事例で、種レベルでの多様性は比較的低いが、種数に比べて数多くの種類の体制が見られる時代だった」、「逆に、高酸素期には、多様性は高いが、新種形成率は低い。この仮説は、低酸素が、体制という点で新しい実験を強いるのではないかという考えにもとづいている。この仮説は、酸素レベルと新しい分類群の形成率に関するデータを新たに比較することによって、裏づけられている」と、自分の画期的な仮説に自信を示している。

「三畳紀の酸素をめぐる物語は呆然とするようなものである。酸素は、10~15%という最低レベルまで落ち、そこで少なくとも500万年はとどまった。・・・すべての証拠は、動物にとって過酷で、環境面で試練に満ちた世界の光景をまぎれもなく描きだしている。動物にとっては長く苦難に満ちた時代だった。しかし苦難の時は、進化と新しい工夫のエンジンを始動させる最良の起爆剤でもある。酸素量が史上最低のレベルまで落ちたこの時点から、長引く酸素危機にうまく対処できる呼吸システムを誇る新しい種類の動物が出現した。陸上では、2つの新しいグループ、哺乳類と恐竜が瓦礫の中から姿を現そうとしていた。後者が世界を乗っ取ることになるあいだ、前者は二番手として出番を待ち受けることになる」と、論証はいよいよ佳境に差しかかる。

「現生の爬虫類や哺乳類と大幅にちがっているのは、現生鳥類の肺が気嚢と呼ばれる付属器官をもっていることで、その呼吸システムはきわめて効率的である。・・・肺と気嚢があいまって、他のいかなる陸生動物の肺よりも多くの酸素を取り入れることができる。(酸素レベルが低かった時代には、そのようなシステムは)競合ないし捕食において、とてつもなく有利であっただろう」。

「鳥類はジュラ紀の後半に二足歩行竜盤類(恐竜の一つのグループ)から最後に進化しつつあった。・・・(空中を飛ぶという)この極めつけの進化的工夫は、ジュラ紀の最後近くまで続いた現在よりも低い酸素条件がきっかけとなって生じたものであると思われる。・・・飛翔はとても大きなエネルギーを必要とする。鳥類は飛ぶために大量のエネルギーを使い、比較的小型で内温性(温血)であることとあいまって、彼らを莫大な量の酸素消費者にしている。そこで、気嚢システムが効果を発揮する」。すなわち、気嚢肺を持ち、低酸素の時代を生き延びて鳥類の祖先となった一部の恐竜を除いて、あれほどの栄華を誇った恐竜は全て、小惑星の衝突が引き起こした気候変動のために絶滅したのである。

進化に関心を抱いている人にとっては、高い知的満足度が得られる書だと思う。