榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

敗戦後の満州で、ソ連兵たちに差し出された未婚の娘たち・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3775)】

【読書の森 2025年7月24日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3775)

東京・台東の旧岩崎邸庭園で、歴史の風を感じました。

閑話休題、『告白――岐阜・黒川満蒙開拓団73年の記録』(川恵実・NHK ETV特集取材班著、かもがわ出版)は、岐阜県黒川満蒙開拓団の関係者(男女)に対するインタヴュー集です。

1943年に岐阜県の黒川開拓団第二陣の650人が旧満州(現在の中国東北部)に入植。しかし、敗戦後、開拓団は孤立し、食料はなく、満洲で暮らしていた中国人からの襲撃に遭い、死線をさまよいます。そこで、開拓団は、生き延びるために、15人の未婚女性をソ連兵に差し出し、「性の接待」を行ったのです。代わりに、村の護衛などを依頼し、食料などももらい、ソ連兵との関係を続けることで、1年間生き延びることができました。約450人が日本に帰国できたとのことです。

<兵隊さんの奥さんには頼めんで。あんたら娘だけは、どうか頼むと言われたんです>(当時20歳)。

<一晩守ってもらわないといかんでしょう。そのためには、その、なんと言うか、慰めの女の人も出さないといかんということで・・・>(当時21歳)。

<団では事務室の一室に接待室を作った。司令部のソ連兵を接待した。それにかしづいて接待する乙女達の泣く声ももれて来た>(男)。

<妹の分まで接待に出た姉。そんな姉の(接待後の)体を洗浄していた私>(当時16歳)。

<「接待」の内容までは知らされないまま、接待所に連れていかれた>(当時17歳)。

<手を引いて寝ろ、じゃないよ。鉄砲の先で私たちを動かしたからね。鉄砲しょったまま、私はやられたんだもん。これで私、抵抗したら、暴発したら私、死んでしまうよ>(当時17歳)。

<もうただ、お母さん、お母さんって泣くだけ。みんな、17、18やもん。泣いて>(当時17歳)。

開拓団では日を追うごとに、発疹チフスが流行り、接待に出た女性のうち、4人が性病(梅毒や淋病)や発疹チフスで命を落としました。

<淋病ですごい膿だった。腹が空っぽになるまで膿が出たっていう話よ。一晩中、痛い、痛いって苦しんだって。見とれなかったという話を聞いたこともある。わかいそうだったよ>(当時17歳)。

<日本へ引き揚げる道中、松花江を渡るために、中国人にも船賃として要求され、女性が犠牲になった>(当時20歳)。

黒川開拓団が引き揚げてきた九州・博多港近くの診療所では、当時、満州でソ連兵からの強姦により妊娠した女性たちの中絶手術が極秘に行われました。

<ソ連兵にひっぱりだされ くらやみに 覚悟きめる 今日までの命と  友の悲鳴 今夜も野獣の餌になる  自決のがれて 一息つくまもなく 接待に切りかえられ 乙女ささげて 数百の命守る>(当時17歳)。

<要するに、誰か人身御供みたいに行かなければいけないわけですね。そのときに、誰が行くのか、そのときにやっぱり親のいない子どもたち、バックボーンのない子たち。だから一番弱い家族の娘が行かされているわけですね。その満州の開拓団の中で、やっぱり力をもっている人は自分たちを守ろうとするし、その中で犠牲になる人も当然いるわけですよね>(男)。

「開拓」とは言いながらも、その多くは、その地に暮らす人々の農地や家を実質的に奪ってのものであった。平和で豊かな生活を夢見て渡っていった開拓団の人々ではあったが、しかし現地の人々から見れば、残念ながら侵略の加担者でしかなかった――という著者の言葉が胸に沁みます。

ずしりと重たい一冊です。