榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

3年離れていると夫婦に何が起こるのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3843)】

【読書の森 2025年9月30日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3843)

10羽ほどのエゾビタキ(写真1~8)の群れに出くわしました。体長45cmほどのヘビ、ヒバカリ(写真9)にも出くわしたが、素早く叢に逃げ込んだため、一部分しか撮れませんでした(写真9の上方)。クヌギ(写真10)の実が落ちています。因みに、本日の歩数は11,132でした。

閑話休題、能は、東京・渋谷の国立能楽堂などで何度か見たことがあるが、『怖くて美しい能の女たち――日本人の美意識の究極のかたち』(林望著、草思社)を読んで、その奥深さを再認識しました。

本書では「葵上」、「野宮」、「紅葉狩」、「巴」、「隅田川、「道成寺」、「砧」、「姨捨」の8曲が取り上げられているが、「砧」が一番印象に残りました。

「砧」の主人公は夫に捨てられた妻です。晩年の世阿弥がこの作品の無上に深い味わいについて、しみじみと述べています。

九州芦屋の男が、訴訟の件でほんの一時の積もりで上京したが、訴訟が長引き3年の長逗留となってしまいました。3年経った時に、芦屋の妻のもとに夫の侍女が「この年の暮れには必ず帰郷するから」という伝言をもたらすべくやって来ました。遠い都で自分ばかり楽しく暮らして、妻のことなど忘れている冷淡な夫に対する妻の深い不信と怨みが爆発します。それは、そんな不実な夫を信じて、うかうかと3年もの間、待ち続けていた自分の愚かしさへの歎きでもあります。

妻の苦悩が極まった時に、侍女が「今、都から使いが来て、今年の暮れにも、殿はお帰りにならぬ由でございます」と告げます。この悲報に接して、妻は遂に自分が捨てられたものと思い切り、その苦悩のあまり突然死してしまいます。

都に戻った侍女から妻の死を知らされた夫は、出家して九州に帰ってきて、思いもかけず永の別れとなってしまったことを悔やみます。

怨み、怨み、怨みで化けて出た妻の亡霊も、法華読誦の力によって、苦悩を乗り越えて無事に成仏できた、というパッピー・エンディングが最後の最後に用意されています。

この「砧」という能には、『伊勢物語』、『源氏物語』、『古今和歌集』、『妙法蓮華経』、『新撰朗詠集』などの要素が取り入れられているというのですから、驚きです。

3年離れていると夫婦に何が起こるのか――考えさせられてしまいました。