本書を読み終えて、率直で毅然としたアンゲラ・メルケルをますます好きになってしまいました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3847)】
シュウメイギク(写真1、2)が咲いています。さまざまなキノコ(写真3~12)が生えています。
閑話休題、現代の政治家の中で私が一番高く評価しているのは、ドイツのアンゲラ・メルケルです。
『自由――回顧録1954~2021』(アンゲラ・メルケル、ベアーテ・バウマン著、長谷川圭・柴田さとみ訳、KADOKAWA、上・下)のおかげで、東ドイツ(ドイツ民主共和国)で35歳まで過ごした一人の女性が、西ドイツ(ドイツ連邦共和国)で最も権力のある官職に就き、そこに16年も留まることができたのはなぜか――を知ることができました。
私にとって興味深いことが数多く記されています。
●メルケルはプロテスタントで、神の存在を信じている。
●メルケルは、マリー・キュリーの伝記、シモーヌ・ド・ボーヴォワールの回顧録から強い影響を受けた。
●メルケルが多大な恩義を感じているヘルムート・コールは、「歴史は歴史だ」と歴史の観点から物事を考えた。また、常に他人の性格を見極めようとし、その評価に基づいて忠誠心を育もうとした。
●メルケルは離婚後、ヨーアヒム・ザウアーと長期間同居後、1998年12月30日に再婚した。
●2005年11月22日、メルケルがドイツ連邦共和国初の女性連邦首相に就任。「最初の女性首相。それが私だった」。
●2006年4月26日のウラジーミル・プーチンの発言。「貧しい人々がウクライナにおいて、米国政府のお金に釣られて2004年秋のオレンジ革命を起こしたのだ。そんなこと、ロシアでは絶対に起こさせない」。「でも、私たちDDR(東ドイツ)国民はアメリカのお金に誘惑されて平和革命を起こしたのではありません。我々が望んだ革命によって生活が改善されたのです。ウクライナの人々もそう望んだはずです」とメルケルが反論。
●メルケルの言葉。「ユーロの失敗は、欧州の失敗を意味する」。
●プーチンにとっては、民主的な体制を構築するとか、きちんと機能する経済を通じて全ての人に豊かさがもたらされるといったことは、どうでもよかった。国内外のどちらにおいてもだ。それよりも、アメリカが冷戦を勝ち抜き勝者となったという事実に対して、なんらかの形で反抗することを重視していた。冷戦後のこの多極化世界において、ロシアもまた不可欠な極となることを求めていた。そのために彼がとりわけ活用したのが、スパイとして培った自らの経験だった。ぞんざいに扱われたくないという、ただそれだけの理由で常に警戒の目を光らせ、いつでも相手をやり込めようと狙っている人物だ。
●プーチンによる2022年2月24日のウクライナ侵攻は、ウクライナだけでなく、NATO加盟国、特にヨーロッパ諸国の状況も根本的に変えた。ロシアがこの戦争に勝利しないことは、ウクライナだけでなく、NATO加盟国の関心でもある。この出来事は、NATO加盟国にとって想像もしたことがなかったほど困難な挑戦となった。ウクライナをサポートすると同時に、信頼に足る抑止力を構築してヨーロッパ大陸のNATO領土を防衛しなければならない。
●ウクライナとジョージアのNATO加盟に異議を唱え、MAPステータス付与には反対の姿勢をとったものの、メルケルはウクライナとジョージアやその他の旧ソ連諸国がEUに歩み寄ろうとする取り組みを、当事国がそれを求める限りにおいて支持してきた。
●ウクライナ全土を標的としたロシアの攻撃は、独立国家の領土保全と主権を侵犯する、露骨な国際法違反だ。首相退任後のメルケルは、ウクライナに寄り添い、ロシアによるウクライナへの蛮行と侵略を終わらせるためにドイツ政府と国際社会が行うあらゆる取り組みを「全力で支援する」意思を表明した。
●メルケルは難民政策を、首相としての決定的なターニング・ポイントと感じていた。
●ドナルド・トランプは明らかに、ロシアのプーチン大統領に強く魅了されていた。この後数年でメルケルが抱いた印象として、彼は専制的で独裁的な性質を持つ政治家に惹かれているようだった。トランプとメルケルは二つの異なる次元で話していた。トランプは感情の次元、メルケルは事実の次元にいるのだ。トランプがメルケルの示す論拠に注意を向けるのは、それをもとに新たな批判を考え出そうとしているときくらいだった。今話し合われている問題を解決することを、トランプは恐らく目指していないのだ。繋がり合う世界に向けた協力は、トランプ相手では望めない。それがトランプとの対話から導き出したメルケルの結論だった。政界に入る前は不動産ビジネス界にいたトランプは、あらゆることを不動産事業家の視点から判断する。
●ドイツは福島第一原発事故から、「2022年までに原子力利用を終結する」という結論に達した世界で唯一の国であり続けている。
●2009年にベンヤミン・ネタニヤフがイスラエルの首相に就任して以降、ネタニヤフとメルケルの意見の相違は、もはや越えがたいものとなる。存続可能なパレスチナ国家を希求することは今も昔も変わらず正当なことだ。しかしそれでも、そうした希求や非難を、イスラエル国家やユダヤ人に対する憎悪を発露するための隠れ蓑として利用することは許されない。
本書に収録されている数多くの写真の中で一番印象的なのは、サッカーのワールドカップのドイツ対アルゼンチンの試合で、夢中になってドイツを応援しているメルケルの姿です。
本書を読み終えて、率直で毅然としたメルケルをますます好きになってしまいました。