榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ベートーヴェンは、幸運に恵まれた、遣り手の音楽家だった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3518)】

【読書の森 2024年11月25日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3518)

センニンソウ(写真1、2)が実を付けています。ハナカタバミ(学名:オキザリス・ボーウィ。写真3)、マルバルコウソウ(写真4、5)、センニチコウ(写真6)、ツワブキ(写真7)、ホトトギス(写真8、9)、シュウメイギク(写真10、11)、コスモス(写真12、13)が咲いています。チャバネセセリ(写真13)、キタテハ(写真14)をカメラに収めました。

閑話休題、『つくられた天才――ベートーヴェンの才能をめぐる社会学』(ティア・デノーラ著、丸山瑶子訳、春秋社)の著者が読者に伝えたいことを、音楽の素養のない私が乱暴にまとめると、こうなるでしょう。

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの才能は認めるが、彼は音楽家としてのスタート時点で幸運に恵まれ、それ以後は、自分のブランディングに利用できるものは何でも利用して、音楽を巡る社会変動の時流に乗って「天才」の称号を確立していった、抜け目のない、遣り手の音楽家だったというのです。

ベートーヴェンが活躍した同時代に、同じように才能がありながら、広く認められずに終わった音楽家がいるというのです。

「ベートーヴェンが自分の経歴に役立つのであれば人を思い通りに操ることもあったということは、驚くには当たらない。むしろ私たちは、企業的駆け引きを音楽分野で利用することにかけて、ベートーヴェンは先駆的人物だったのだと評価すべきである」。

「ベートーヴェンが成功したのは、複雑な関連の網の目(ネットワーク)が構築され、それが彼の才能を演出し、その才能が認知されるよう方向付けられたからなのだ。・・・美的価値判断および音楽評価における思潮は、ベートーヴェン寄りの文化の作り手たちが、この文化を組織的に構築していく活動を通じて変わっていった」。

本書は社会学の立場からベートーヴェンに迫った力の籠もった著作であるが、著者の主張に素直に頷けない点があります。ベートーヴェンと比べるのはおこがましいが、運97%、努力3%でここまで何とかやってきた私としては、幸運を生かし、その後も、パトロン階層との関係など社会の変化を見逃さなかったベートーヴェンは、人生の「天才」と呼ぶにふさわしいと考えるからです。