榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

校正者・牟田都子のエッセイ集を読みながら、何度も頷いてしまいました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2712)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年9月19日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2712)

コムラサキ(写真1、2)、コブシ(写真3)が実を付けています。ニチニチソウ(写真4、5)、シュウメイギク(写真6)が咲いています。我が家の庭では、シロバナマンジュシャゲとヒガンバナが見頃を迎えています(写真7)。

閑話休題、『文にあたる』(牟田都子著、亜紀書房)は、校正者・牟田都子のエッセイ集です。

「人生の優先順位は人によって、ライフステージによっても異なり、仕事への取り組み方も違うし、違っていていい。どちらが良いとか悪いとかではなくただ『違う』のだと、わたしは思います。ただ、協働する相手が同じ方角を見ているかどうかは、わたしにとっては大事です。本作りは一冊ごとにチームを結成しては解散するような一期一会の仕事ですが、その中でもくり返し同じチームになる人とは、優先順位のつけかたが似ていると感じることが多い。そういう人たちとは、一緒に食事をしていても気がつけば仕事の話になっている。本とは? 校正とは? 編集とは? 装丁とは? いくらでも話せるし話したい、知りたい、考えたいと思う」。

「国語だけは得意だと思い込んでいました。本だけは人よりも多少読んでいるから大丈夫、と。それが慢心でしかなかったことを(校正者になって)すぐに思い知らされました。練習を兼ねて渡されたゲラを、これ以上できないというくらい慎重に読んだつもりだったのに、最初のページを見るやいなや『ここ、落ちてる(=ミスを見落としている)よ』と指さされたのが『にも関わらず』でした。あわてて『広辞苑』を引くと見出しは『拘わらず』。愕然としました。三十年間『関わらず』だと思って疑ったことがなかった。『思って』とは『思い込んで』ということだったのです。本だけは人よりも多少読んでいるから大丈夫などとは思い上がりもはなはだしかった。のっけから象に踏み潰された蟻のようにぺしゃんこになった気持ちでした。ぺしゃんこの日々は続きました。疑わしきは引け、と辞書を引き引き読むのですが、どんなに一所懸命読んだつもりでもかならず見落としを指摘される。『散りばめる』は『鏤める』、『例え』は『仮令』、『言えども』は『雖も』、『笑い者』は『笑い物』・・・。辞書を引くのは知らない言葉が出てきたときと思っていましたがそうではなかった。日常的に使っている言葉、辞書を引くまでもなく知っているつもりでいた言葉ほど、ゲラを読んでいてすっと通り過ぎてしまう、そこに間違いがひそんでいる」。

「辞書を複数持つと『比べる』ことができるようになります。一冊だけ使っていたのでは見えにくい特徴が、二冊、三冊と使い比べるうち実感されてくる。同じ口径の鍋でも軽くてとりまわしやすいミルクパンや行平鍋はお味噌汁を作るのに、頑丈なステンレス鍋は炒めものに、重たい鋳物鍋は時間をかけた煮込み料理に・・・と、自然に手が伸びるように。わたしの場合はかゆいところに手が届く『明鏡』、新語に強い言い切り型の『三国』、真面目で保守的な『岩国』と、徐々に買い足し使い分けるようになりました。二〇一七年に『精選版 日本国語大辞典』のiOS版が発売されてからは、スマートフォンの辞書アプリを使うことも増えています」。因みに、私は『明鏡国語辞典』と『岩波国語辞典』を使い分けています。

読みながら、何度も頷いてしまいました。