できの悪いPower Pointプレゼンテーションの悲劇・・・【MRのための読書論(86)】
実例とカラー映像のコラボ
プレゼンテーションに自信が持てないMRは言うまでもなく、自信があると胸を張るMRにとっても、『プレゼンテーションZen――プレゼンのデザインと伝え方に関するシンプルなアイデア 第2版』(ガー・レイノルズ著、熊谷小百合訳、ピアソン桐原)は必読の一冊である。
準備→デザイン→実施のステップのそれぞれについて、具体的な実例が豊富なカラー映像とともに紹介されている。禅に惹かれている著者らしく、語り口はシンプルかつ率直である。巻末に添付されている、著者が英語で語りかける50分のDVD(日本語字幕)が、理解をさらに深めてくれる。
できの悪いプレゼンの悲劇
「できの悪いPower Pointスライドと退屈なナレーションという悲劇」を食い止めるためには、Power Pointプレゼンの準備・デザイン・実施を従来とは違ったものにする必要があるというのだ。準備に当たっては「抑制」を心がけ、デザインは「シンプル」に、実施においては「自然さ」を心がけることによって、自分と聞き手の双方にとって分かり易い、そして両者の間に親密な一体感が生まれるプレゼンが可能となるのである。
準備段階のポイント
「情熱なくして、創造力は生まれない」、「制約は必ずしも悪いものではない。実際、それは有益であり、時にはインスピレーションさえ与えてくれる。制約があるがゆえに、我々は目の前の問題について、いつもとは違った創造的な発想をせざるを得なくなるからだ」と考える著者は、準備に際しては、自制心を働かせ、「シンプル」「明快」「簡潔」を常に意識するようアドヴァイスしている。
「ほとんどの人は、最初からいきなりソフトウェアツールを使ってプレゼンの計画を練ろうとする。実際、ソフトウェアメーカーもそれを奨励している。だが、私はそうしたやり方を勧めない」と、紙とペンを使って「アナログ的」に大まかなアイディアを書き出す方法を推薦している。全く同感である。
そして、大切なことは、「もし、たった一つのことしか聴衆の記憶に残らないとしたら、それは何であって欲しいか?」と、今回のプレゼンの究極的なメッセージを頭の中ではっきりイメージせよと強調している。
プレゼンの準備段階できちんとした配布資料を作っておけば、何もかもヴィジュアルに詰め込まなければならないという思いから解放されるというのだ。「スライドをそのまま印刷したものを配ることは、絶対に避けるべきだ。まして、プレゼンの前に配布するのはもってのほかである。それは命取りになる」と手厳しい。
聞き手の心に残るメッセージは、「単純明快」「意外性」「具体性」「信頼性」「感情に訴えること」「物語性」を備えているのである。
デザイン段階のポイント
著者は、「全てのスライドに会社のロゴを入れる必要はない」と、最初と最後のスライド以外からロゴを外すことを勧めている。
私が一番、衝撃を受けたのは、「一般的な指針として、箇条書きはめったに使わない方がいい」という指摘だ。私は、「1枚のスライドには1トピックまで、テキストは最大7行まで」というルールを、長年、遵守してきたからである。著者は、「ビジュアルの方が箇条書きより人々の記憶に残りやすい」というのだ。
一方、「余白を意識し、それを使ってより明確なビジュアルを作り上げるようにしよう」というアドヴァイスには、賛成である。
実施段階のポイント
「プレゼンを行う際に最も大切なのは、その瞬間に完全に集中することだ。よいプレゼンターは一瞬一瞬に全力を注ぎ、今、この場所を聴衆と分かち合うことに情熱を傾けようとする」。私の経験からも、「情熱」は必須である。
「個人的」「予想外」「斬新」「挑発的」「ユーモラス」といったパンチの効いたオープニングで聞き手の心を鷲掴みにすることの重要性に言及している。
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