榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

80億人がインターネットで繋がる近未来の世界とは・・・【MRのための読書論(103)】

【Monthlyミクス 2014年7月号】 MRのための読書論(103)

SFを超える迫力

第五の権力――Googleには見えている未来』(エリック・シュミット、ジャレッド・コーエン著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社)は、世界の80億人がインターネットで繋がる近未来を予測しているが、しっかりした論拠に基づいているので、絵空事のSFを超えた迫力で迫ってくる。

未来は明るいのか暗いのか

著者の主張は、3つにまとめることができる。第1は、技術は、それ自体は諸悪を解決する万能薬ではないが、賢明に利用すれば大きな成果を生むということ。第2は、仮想世界は、現実世界の既存の世界秩序を覆したり、組み替えたりすることはないが、現実世界のあらゆる動きを複雑にしていくということ。第3は、国家は、2種類の外交政策と2種類の国内政策を、つまり仮想世界と現実世界とでそれぞれ異なる政策を実行することになるということ。

「未来の展望や可能性について考えていると、人類史上最もペースが速く最も刺激的な、輝かしき新時代が、今まさに始まろうとしていることに気づく。これから私たちは、過去のどの世代よりも多くの変化を、より速いペースで経験することになるのだ」。しかし、「それには代償が伴うことも知っておくべきである。特にプライバシーとセキュリティに関わる代償だ」。このように、プラス面だけでなく、マイナス面にも目配りが利いている点が、本書の特徴と言える。そして、「プライバシーとセキュリティ・4つの対処戦略」が示される。

医療分野では

「近い将来に実現する健康と医療分野の進歩は、多くの画期的な新しい進展のなかでも、特に重要なものになるだろう。またコネクティビティが向上しているおかげで、過去のどんな時代よりもずっと幅広い層の人たちがこの恩恵を受けられる。病気の発見と治療、カルテの管理、個人の健康状態の監視といった面での進歩に、デジタル技術の普及という要素が加われば、何十億もの人たちが医療や医療情報をより公平に利用できるようになるのだ」とし、多くの具体例が挙げられている。また、「遺伝子検査の進歩により、個別化医薬品の時代が到来するだろう」と見通している。

ウィキリークスは危険

著者は、ウィキリークスの思想は危険だと断言する。「判断力に欠ける者が人を死に追いやるような情報を流す危険がつきまとうからだ」。これに対し、ウィキリークス代表のジュリアン・アサンジは、本書を「テクノロジー至上主義的な帝国主義への青写真」と批判し、「この本は、未来のために戦う者たちの必読書である――『汝の敵を知れ』という意味において」と述べている。

報道の危機

「現在の主流報道機関が、世界のニュース報道でますます遅れをとるのは、火を見るより明らかだ。どんなに優秀な記者や特派員がいても、どれだけ情報源をもっていても、誰もがつながる時代になれば、大きな組織は十分速く動くことはできない。・・・多くのメディアは今のままでは生き残れない。生き残れるのは、新しいグローバル市民のニーズの変化に合わせて、報道の目的や手法、組織構造を修正していける報道機関である」と手厳しい。

非民主主義国家では

グーグル会長である著者が、「中国はここ数年、グーグルをはじめとするアメリカ企業に、サイバー攻撃を仕掛けている。・・・グーグルは調査を進めるうちに、中国政府またはその代理人が、攻撃の背後にいると断定できるだけの十分な証拠を収集した。技術的な手がかりのほか、一部の攻撃が中国人人権活動家を標的としていたことからも明らかだった」と明かしている。

シンガポール首相のリー・シェンロンが、こう語っている。「中国で起こることは誰にも、中国政府にさえ、完全にはコントロールできません。・・・ネットユーザーが国民の少数派から多数派になるのは、指導部にとって厄介なことでしょうね」。