過去も現在も、未来も、人間は生きてきて、悩んだり苦しんだり、愛したり憎んだりしながら、やがて死んでゆき、忘れられてしまう。・・・【ことばのオアシス(122)】
【薬事日報 2013年7月22日号】
ことばのオアシス(122)
過去も現在も、未来も、人間は生きてきて、悩んだり苦しんだり、愛したり憎んだりしながら、やがて死んでゆき、忘れられてしまう。
――山本周五郎
山本周五郎の伝奇小説『山彦乙女』(新潮文庫)の一節。「人間の為したこと、為しつつあること、これから為すであろうことは、すべて時間の経過のなかに、かき消されてしまう」と続く。これだけだと溜め息が出そうになるが、「慥(たし)かなのは、自分がいま生きている、ということだ。生きていて、ものを考えたり、悩んだり、苦しんだり、愛しあったりすることができる、ということだ」という部分までくると救われる。
「人間はなにを為したかではなく、何を為そうとしたか」が大切だというのが、周五郎の人生観であった。
周五郎の作品の中から心に染み入ってくる言葉を選び出し、「下町――人情のぬくもり」「職人――矜持と意地」「岡場所――苦界の女たちの涙」「士道――武士の本分」「医道・芸道・婦道――ひとすじの道」「滑稽――ユーモアとペーソス」「不思議――夢か現かワンダーランド」「法――裁きとゆるし」「現代――都市と人間」「エッセイ――読者へのエール」のジャンルに分類したのが、『山本周五郎のことば』(清原康正著、新潮新書)である。恰好の周五郎文学案内にもなっている。
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