榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

君たちにゲリラ戦を生き抜く武器を配りたい・・・【MRのための読書論(74)】

【Monthlyミクス 2012年2月号】 MRのための読書論(74)

若いMRの必読書

武器としての決断思考』(瀧本哲史著、星海社新書)は、京都大学の客員准教授の瀧本哲史が学生に教えている「意思決定の授業」を一冊に凝縮したものだが、MRにとっても必読の書である。今後のカオスの時代を生きていく若い世代に一番必要なのは、徒に知識を増やすことではなく、意思決定の方法を学ぶことであり、決断力を身に付けることだという著者の熱い思いが詰まっているからだ。

もう過去のやり方は通用しないし、モデルとなる人生のルールのようなものもなくなってしまった。「答え」は誰も教えてくれない。となれば、自分の人生は、自分で考え、自分で決めていくしかない。仕事をどうするか、家庭をどうするか、人生をどうするか。この本で「自分で答えを出すための思考法」を学んだMRと、そうでないMRとでは、今後の人生が大きく異なってくることだろう。

「正解」のない時代

「知識ではなく考え方を学ぶ」というのは、言い換えると、「答えではなく、答えを出す方法を学ぶ」ことだ、と著者が述べている。これまでは、ビジネスにしろ人生にしろ、何となくモデルがあったので、一所懸命それを真似して、皆に合わせておけば特に問題は生じなかった。しかし、今や、「正解」なんてものはない。自分の力で一つずつ答えを出していかなければならない。すなわち、「自分の人生は自分で決めていく」ということだ。先ず、こう覚悟を決めることが前提となる。

これからの時代における最大のリスクは、「変化に対応できないこと」である。その際、心がけなければならないのは、正解ではなく、「今の最善解」を導き出すことである。そのベストな方法は、議論を行って物事を決めていくこと、すなわちディベイトだと著者は断言する。議論は、異なる意見、複数の意見をぶつけ合うことで、正解ではなく今の最善解を導き出すためのものである。厳密に言うと、議論に特定のルールを加えたものがディベイトということになる。

ディベイトのルール

ディベイトの基本ルールは4つある――①特定の論題について議論する、②賛成側と反対側に分かれる、③話す順番、発言時間(制限時間)が決まっている、④第三者を説得する。議論する相手を論破したり、相手側の意見を変えさせる必要などないということだ。ディベイトの質を決定するのは、「準備が8割、根拠が命」だと著者が強調している。

ディベイトの具体的な進め方と、その留意点、対処法がステップ・バイ・ステップで学べるように、熱の籠もった授業が次々と展開されていく。

自分独りで行うディベイト

ディベイトを自分独りの頭の中で行うことによって、今の最善解を出していくことがディベイト思考である。この場合、一番重要なのは、どういう結論を出したかということ以上に、どういった思考を経て、その結論を導き出したかという道筋が重要となる。なぜならば、道筋がはっきりしていれば、修正することが可能となるからだ。前提が変わったり、理由が間違っていたら、結論を変えればいいだけの話だと言うのだ。究極の正解みたいなものを出そうとすると、いつまで経っても結論など出ないから、取り敢えずいろいろ考えて、今の最善解を出してみる。そして、実際に行動してみて、うまくいけばそれでいいし、うまくいかなかったらやり直す、もっとよい最善解を考えてみる。この「知識・判断・行動・修正」という4つのサイクルを回していくことを、著者は「修正主義」と呼んでいる。

こういう基本的な考え方を知らないと、いつも思いつきで行動するだけで、行き当たりばったりの人生を歩むことになる、ただ流されるだけの人生、大事なことはいつでも先送りする人生を送ることになる、と著者は手厳しい。一回きりしかない自分の人生は、自分で考え、自分で決めていく、これがこの授業――「思考」と、その思考を基にした「決断」を重視する――の結論である。