仮説を立てると、仕事のスピードが格段に速くなる・・・【MRのための読書論(41)】
時間切れとの闘い
MRが戦略・戦術を立てるとき、プレゼンテーションやディテーリングを準備するとき、あるいは企画書・提案書や報告書を作成するとき、関係があると思われる情報は可能な限り集めたのに、なかなか結論が得られず、遂に時間切れになってしまったという経験のある人は多いと思う。一方、ごく限られた情報しか手にしていないのに、短時間のうちに結論に到達してしまう人がいる。どうして、このような差が生じてくるのか。
仮説の効用
この疑問に明快な答えを与えてくれるのが、『仮説思考――BCG流 問題発見・解決の発想法』(内田和成著、東洋経済新報社)である。「仮説」、すなわち、情報収集の途中や分析作業をする前に既に「正解に最も近いと思われる仮の答え」を持っているか否かの差だというのだ。そして、情報が少ない段階から、常に問題の全体像や結論を考える思考スタイルを「仮説思考」と呼んでいる。
この早い段階で結論を考える力をつけると、どういう効用があるのか。第1には、仕事をこなすスピードが格段に速くなる。あらかじめ仮の答えを見つけてから検証するのだから、その答えが大幅に間違っていない限り、闇雲に調べたり、証明するのとはスピードに大きな差がつくのは当然だろう。第2には、仕事の質が高くなる。あらかじめ仮説を立てて、それを検証するというプロセスを繰り返すことによって、仮説の精度が上がり、間違いが少なくなり、意思決定の質が上がるというのだ。第3には、物事の全体像を把握する力が確実にアップする。従って、仮説の効用は、先見力、決断力、大局観が向上すると言い換えることができる。そして重要なことは、仮説の効用は個人にとどまらず、組織にも及ぶということだ。
仮説思考の実践
仮説思考というのは、大した情報がないうちから仮の結論を出すのだから、気持ち悪さが付きまとうのは当然のことだ。さらに、結論から考える仮説思考は、自分が気持ち悪いだけでなく、他人から反論されたり批判されるという気持ち悪さも伴う。しかし、この気持ち悪さを乗り越えないと、いつまで経っても仮説思考が身につかない。気持ち悪さがあろうと、腹を据えて、結論から考えるようにしよう。
仮説思考のコツは、とにかく少ない情報で考えることだという。情報が多ければ多いほど、よい意思決定ができるという網羅思考に毒されているうちは、仮説思考は身につかないというのだ。少ない情報しかなくても、たくさん情報を集めた人と同じ質の推論や課題発見ができる人が、結局は勝つのだ。なぜならば、ライヴァルが情報集めをしている段階で、彼らより一段深く掘り下げた課題に進める、あるいは課題の解決策構築に取りかかれるからである。
仕事を与えられるとすぐ作業を始めてしまう癖のある人は、その前に30分でよいから全体像を考えるようにすべきと述べられている。少ない情報で全体像を掴むことができると、仕事の効率が格段に上がる。先ず何をやるべきかがはっきりする。証明すべき事柄や、やるべき分析が明確になる。また、仕事を何名かで分担している場合は、全体像が分かっているので、自分が担当する仕事がどの部分を構成していて、何を目的としているのかが明瞭になる。
最初から仮説思考が完璧にできる人はいない。たとえ仮説が間違っていたとしても、やり直せばよい。失敗から学ぶことによって、仮説思考は鍛えられていくのだ。
MRの仮説思考
MR活動で重要なことは、どれだけたくさん働いたかではない。どれだけたくさん情報を集めて正確に分析したかでもない。どれだけ短時間のうちに、どれだけよい答えを出して、それを速やかに実行に移せたかであることは言うまでもない。ライヴァルとの競争の中で、そして時間との闘いの中で、常に成果を上げ続けなければならないMRにとって、より少ない情報から短時間で確かな結論を導き出し、実行していく仮説思考は、真に有効な武器となるだろう。
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