榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

宮崎駿が改憲に反対する本当の理由・・・【続・リーダーのための読書論(29)】

【ほぼ日刊メディカルビジネス情報源 2013年7月29日号】 続・リーダーのための読書論(29)

鼎談の醍醐味

時代の風音』(堀田善衞・司馬遼太郎・宮崎駿著、朝日文芸文庫)は、20年前に、宮崎駿(はやお)が敬愛する堀田善衞(よしえ)、司馬遼太郎との鼎談を熱望し、実現させた、その貴重な記録である。

興味深い発言のオン・パレイドである。
●宮崎「ウイグルとかチベットが中国領というのは私は信じ難いんですね。征服としか思えないのですけど」
●司馬「人類の歴史のなかで、北朝鮮のような国は一度も登場したことはないですね」
●堀田「カーニバルとはだいたいにおいて下町と、それからギルドのお祭りです。そこへは貴族や上流階級が参加できない。だけど、ああいうばか騒ぎは楽しいですから、その行列が通ると、貴族や上流階級は、窓からうらやましそうにのぞいて見ているわけです」
●堀田「スペイン語でフラメンコというのは、オランダ人という意味なんですよ」
●司馬「宮崎さんに一つ作ってほしいテーマがあるのですが。平安時代の京の闇に棲んでいた物の怪(け)のことです」――これは宮崎のアニメーション『もののけ姫』誕生秘話かもしれない。
●司馬「(北条政子は)シェークスピアと同じに、人生は対決だということを知っています。(頼朝の死後)京都に立ち向かうのは畏れ多いぞというみなの気分がある。そのときの北条政子の演説というのは、シェークスピア劇そのものです」
●司馬「あの宮崎さんの『となりのトトロ』に出てくる幼い女の子と同じ(階段の)上り方でした。こう両足を揃え揃えして、上り下りしていました」
●堀田「国是(憲法)というものを、いたずらにいじってはいけない」

宮崎の改憲反対

最近、宮崎の「憲法を変えるなどもってのほか」という意見表明が話題となっている。『時代の風音』の中に、このような発言がある。
堀田「ナポレオンがはじめて徴兵制に基づいたナショナル・アーミー、つまり国民軍というものをつくった」
司馬「つまり、タダだということですね、徴兵ですから。いくら敵弾で死んでも、指令官の損にはならない」
――宮崎の目には、改憲の先に徴兵制が見えているのではないか。