榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

憲法は国家権力を縛るために書かれたものだ・・・【山椒読書論(273)】

【amazon 『日本人のための憲法原論』 カスタマーレビュー 2013年9月7日】 山椒読書論(273)

日本人のための憲法原論』(小室直樹著、集英社インターナショナル)には、驚くべきことが書かれている。

「現在の日本には、さまざまな問題があふれかえっています。10年来の不況、財政破綻、陰惨な少年犯罪、学級崩壊、自国民を拉致されても取り返さない政府・・・実はこうした問題の原因をたどっていくと、すべては憲法に行き着くのです。現在日本が一種の機能不全に陥って、何もかもうまく行かなくなっているのは、つまり憲法がまともに作動していないからなのです。憲法という市民社会の柱が失われたために、政治も経済も教育も、そしてモラルまでが総崩れになっている。これが現在の日本なのです」。

「憲法も民主主義も、けっして『人類普遍の原理』(日本国憲法前文)などではありません。これら2つは近代欧米社会という特殊な環境があって、はじめて誕生したものですから、憲法を知るには、欧米社会の歴史と、その根本にあるキリスト教の理解が不可欠なのです。憲法がどのように成長していったかを知ることによって、おのずと今の日本の問題点も課題も見えてくる。私はそう信じています。憲法とは何か、民主主義とは何かという原点に立ち返ることこそが『日本復活』への唯一の方法だと思うのです」。この考えに沿って、講義形式で憲法の本質が説き明かされていく。

「日本国憲法は死んでいる」、「民主主義と資本主義は双子だった」、「『憲法の敵』は、ここにいる」、「平和主義者が戦争を作る」、「ヒトラーとケインズが20世紀を変えた」、「角栄死して、憲法も死んだ」、「憲法はよみがえるか」など、いずれも論調が刺激的で、小室直樹の面目躍如である。

しかし、何と言っても、私が一番衝撃を受けたのは、「憲法は誰のために書かれたか」という設問に対する解答である。「憲法とは国民に向けて書かれたものではない。誰のために書かれたものかといえば、国家権力すべてを縛るために書かれたものです。司法、行政、立法・・・これらの権力に対する命令が、憲法に書かれている。国家権力というのは、恐ろしい力を持っている。警察だって軍隊だって動かすことができる。そんな怪物のようなものを縛るための、最強の鎖が憲法というわけです。・・・何しろ近代国家には軍隊や警察という暴力装置がある。また人民の手から財産を丸ごと奪うこともできる。さらに国家の命令一つで、人民は徴兵され、命を戦場に投げ出さなければならない。こんな怪物を野放しにしていたのでは、夜もおちおち寝ていることはできないでしょう」。

この点を正しく理解した上で、世論に流されることなく、国民の一人ひとりが、護憲か改憲かを賢く選択すべきだろう。

因みに、本書は『痛快!憲法学』(小室直樹著、集英社インターナショナル)の愛蔵版である。