榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

細胞内は常に掃除が必要なのだ・・・【山椒読書論(276)】

【amazon 『細胞が自分を食べるオートファジーの謎』 カスタマーレビュー 2013年9月11日】 山椒読書論(276)

細胞が自分を食べるオートファジーの謎』(水島昇著、PHPサイエンス・ワールド新書)からは、このオートファジーという急速に重要性を増している研究テーマに全身全霊で取り組んでいる著者の熱気が伝わってくる。

オートファジーという用語は、ギリシャ語の「自分(オート)」と「食べる(ファジー)」を組み合わせたもので、日本語では「自食作用」と訳されることもある。「これは細胞丸ごとを食べてしまうようなものではなく、細胞内の一部を少しずつ、しかし時に激しく、分解する(食べる)行為を指す。細胞が自分を食べるというと驚くかもしれないが、決して危険で自虐的なものではない。むしろ私たち生物の営みにとって必要な作用なのである。オートファジーはまさに細胞内のリサイクルの重要な担い手であるとも言える」。

「掃除をしなければゴミがたまって汚れてくる、というのは私たちの身の回りのことだけではない。細胞の中も同じである。私たちの細胞はまさしく『生(なま)もの』であって、使っているタンパク質や細胞小器官は徐々に悪くなってくる。タンパク質の中には、合成する途中で失敗してしまい、最初からゴミ同然となってしまうものもある。このようなものをそのままにしておけば、細胞の中はあっというまに使えないものだらけになってしまう。それでは、細胞としてまともに生きていくことができなくなる。そのためにも、細胞内を常に新鮮な状態に保つべく、ゴミがでればそれを処理したり、あるいはゴミとなる前に取り替えたりする必要がある」。細胞内は常に掃除をしないといけないのだ。

このオートファジーを担当しているのは、細胞内に存在しているリソソームという細胞小器官である。その内部に約70種の分解酵素を持つリソソームは、細胞内のゴミ処理工場という、重要だが、地味な仕事を受け持っているのだ。このゴミ処理機構のおかげで、細胞を長期間使えるようになったのである。

オートファジーは侵入してきた細菌やウイルスを分解する役割も担っている。

オートファジーは単なる細胞質のゴミ処理にとどまらず、細胞質成分を入れ替えることによって、細胞の品質管理も行っている。著者は、将来、オートファジーが腫瘍誘発や神経変性などの治療に結びつく可能性があると意欲満々である。

さらに、細胞内を入れ替え、細胞の性質を変えることで、オートファジーは生物の発生や分化にも関与しているというのである。

生物は飢餓状態に陥ると、自分を食べて飢餓を乗り越えようとする。オートファジーは栄養飢餓のときに活性化され、細胞が自らのタンパク質を分解してでも、そのときに必要なアミノ酸を得ようとするのである。これらのアミノ酸は飢餓に適応するためのタンパク質を作るのに利用される。これがオートファジー本来の最も基本的な役割である。

著者が、「オートファジーを研究している私自身にも、現在のオートファジー研究の勢いは想像を絶するものである。この先どのような方向にこの研究分野が進んでいくのか、予想もできない」と述べているように、オートファジーからは目が離せない。