風情のある坪庭に癒やされる私・・・【山椒読書論(280)】
私は京都が好きだ。庭が好きだ。こぢんまりとした坪庭が好きである。
そうそう京都に行くわけにはいかないので、『京都坪庭拝見』(水野克比古著、光村推古書院)の庭たちを眺めて我慢することにしている。
著者が「あとがき」で、こう述べている。「坪庭とは何だろう。周囲を建造物に囲まれた土地、建物の外観からは想像のつかない秘められた庭空間のことである。世間とは全く隔離された存在なのだが、そこに居住する人々にとっては、大切な住み処の一部であり、最も身近な外界との接点である。すなわち、人工の空間の中に、吟味された好みの自然石や石造品、草木の植栽を配して、自然を取り込んでいる。坪庭は、四季を呼び込み、雨や風や光の変化を告げながら、暮らしに潤いを与えてくれる。その秘園を覗き見る誘惑に心動かされて、私はもう30年近くも坪庭の写真撮影に取り組んできた」。
本書には110枚の写真が収められているが、私がとりわけ気に入っている瑞峯院の茶庭は、「待庵を模した二畳の間の茶室に付属して、極小の坪空間が設けられている。苔上に打たれた4個の踏石と、躙口(にじりぐち)前の沓脱石(くつぬぎいし)、そして1個の景石とで構成した真にさっぱり感漂う坪の内である。数株の歯朶(しだ)が茂り、興趣を添えている」と説明されている。
野口家の坪庭――店の間と内玄関と座敷に囲まれた表の坪庭。主景として、低く掘込まれた織部形石燈籠。景石一つに、わずかな飛石、植栽は南天に下草も低く、侘びた風情が実に好ましい。数株の四方竹が涼風に揺れている夏の午後。
中辻家の坪庭――賀茂の真黒石を組んだ滝から地下水を落とし、貴船石で護岸された流れが庭の主意匠。その風情は京都盆地を流れる清流の景色を見立てる。京の町家の奥深くに、このようなスケール豊かな坪庭が隠されていようとは余人には想像もつかない。
岡田家の坪庭――「小さき露地には石の手水鉢大なるよろし・・・」の格言通り、縁先に大型の棗形手水鉢を据える。鞍馬石の8尺高の春日形燈籠や景石、飛石すべて大型で、小面積を逆手にとった庭園手法はただものではない。厳冬のころ、町家の小庭にも雪が降り込んで、素晴らしい異空間が現出する。
泉政の露地――座敷と茶室との間に露地がある。鉤形の地形が生かされ、小庭ながら変化に富んでいる。飛石、鉄鉢形の手水鉢、織部燈籠など上品で、丸葉ヒイラギ、カエデ、竹などの植栽もごく自然で、祇園の茶亭らしい雰囲気が保たれている。
美しく鮮明なカラー写真も、味わい深い説明も素晴らしい写真集である。