心惹かれる小さな庭の写真集・・・【山椒読書論(496)】
私は小さな庭に心惹かれる。『坪庭のすすめ――小さな庭のプラン常識集』(小埜雅章監修、水野克比古写真、講談社。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)には、魅力的な数々の庭の写真が掲載され、その庭の特徴が短く付記されている。
とりわけ、私が気に入ったのは、鳥居邸(京都市上京区)の庭である。「簡素ななかに奥ゆかしい品格――つくばいには、銭形布泉の手水鉢がすえられている。つくばいに対して織部灯籠をやや高めにして均衡を保ち、飛石も最小限度におさえてある。茶道速水流宗匠が大正中期に作庭指導したと伝えられる坪庭」。雪を被った灯籠、手水鉢、ヤツデが上品に佇んでいる。
加納邸(京都市上京区)の庭も趣がある。「茶とのかかわりをもつ町家の庭――京の町家に多く見られる伽藍石を配した飛石と灯籠、袖垣といった構成に、井筒の泉が興をそえる。泉は茶の水を供するとともに、露地に打水され、手水鉢に満たされる」。こういう庭を眺めて暮らせたら、どんなに心静かな日々が送れることだろう。
巽邸(京都市上京区)も素晴らしい。「季節の移ろいを庭は映しだす――縁先手水鉢、ややはなれて織部灯籠、中ほどの六角灯籠、そして冬も緑を保つ植栽が雪の庭にくっきりとうかびあがる。季節の移りゆく姿を、座敷から味わえるのである」。我が家のごく小さな庭の多胡灯籠でさえ、雪に覆われるとそれなりに見映えが増すのだから、巽邸の庭の雪景色を実際に目にしたら息を呑むことだろう。
松栄堂(京都市中京区)の「ビルの屋上につくられた坪庭」は、庭のあり方に 一石を投じている。「ビルの屋上に露地風につくられた坪庭。伽藍石風の手水鉢と低くすえられた灯籠、それを見守るような木斛の植栽、そして真黒石という落ちついた構成になっている。その右側に茶室がある。四つ目垣の手前は、低い笹竹と竜の鬚だけの抑制のきいた意匠」。
近又旅館(京都市中京区)も落ち着きが感じられる庭だ。「全方位の鑑賞に支障のない工夫――四方を廊下にかこまれた3坪ほどの小さな空間。主役の石灯籠に光悦垣をあしらい、どこからでも見られるように、景石は低くおさえられている。手水鉢は司馬温公形である」。光悦垣の庭を引き締める効果が、これほど絶大だとは。