著者が薦める美術館に行きたくなってしまう魅惑的なガイドブック・・・【情熱的読書人間のないしょ話(519)】
庭いじりしていた女房が、緑色のカメムシがいるわよ、と教えてくれました。光沢のあるツヤアオカメムシでした。散策中に、実が色づき始めているブドウを見かけました。丸みを帯びたトウガンが実っています。因みに、本日の歩数は10,834でした。
閑話休題、『フランス人がときめいた日本の美術館』(ソフィー・リチャード著、山本やよい訳、集英社インターナショナル)は、日本美術をこよなく愛するフランス人美術史家が選んだ、本当に訪ねる価値のある美術館のガイドブックです。
私が行きたくなったのは、旧朝倉家住宅(東京都渋谷区)です。「ここで目にすることができるのは、都会のコンクリートに囲まれた小さな奇跡です。手入れが行き届いているのに、訪れる人が少ないので、伝統的な日本建築を心ゆくまで鑑賞しながら、流行の最先端を行くエリアの真ん中で静かに思索にふけることができるでしょう。・・・靴を脱いで木造2階建ての住宅に入ると、畳の部屋を自由に歩きまわれます。・・・庭の眺めを楽しみたいなら、畳に座りましょう。庭に向かって開け放たれた障子が美しい風景の額縁となり、人の手が入った部分と自然のまま残された一角とが絶妙なバランスを見せています。無数の常緑樹と150本ほどの紅葉を配した庭園には、四季折々の美しさがあります。・・・隅々にまで上質の木材が使われているので、邸内は杉と檜、それに畳独特の爽やかな香りに満ちています」。著者が本書を書くきっかけになったお気に入りの場所だけに、説明にも力が籠もっています。
著者にこう言われたら、誰でも、三溪園(神奈川県横浜市)を訪れたくなってしまうでしょう。「ここは重要文化財に指定された歴史的建造物がいくつもあるすばらしい場所です。魅力的な庭園で和風建築を堪能したい人にとってはまさに理想的。まわりはなだらかな丘で、豊かな緑に囲まれ、景観を損ねる現代的なビルはどこにもありません。・・・17の建造物が点在。訪れた人はこれらの建物を鑑賞しながら、池や小川や多種多様な木々を配した絵のように美しい庭園を散策することができます」。
重森三玲庭園美術館(京都市左京区)にも足を延ばしたくなります。「とても小さな美術館ですが、庭園が好きな人はぜひ訪ねてみてください。京都には数多くの庭園がありますが、どこも観光客で混みあっていて、『禅』の雰囲気にはあまり浸れません。でも、重森三玲庭園美術館はそれほど世に知られていないうえに、保存のための厳格な規則を設けているので、訪れた人は心静かに庭園を鑑賞することができます」。
樂美術館(京都市上京区)で、樂家の初代・長次郎の黒樂茶碗「面影」を直に見たくなりました。「樂焼きの発祥は16世紀の京都。茶道具としてつくられました。樂茶碗を最初に用いたのは茶道の祖、千利休で、その茶碗は樂家初代の長次郎作といわれています」。
MOA美術館(静岡県熱海市)の広々とした展示室と広大な庭を懐かしく思い出してしまいました。当館所蔵の岩佐又兵衛の長大な「山中常盤物語絵巻」全巻が展示された時、どうしても見たくて訪れたことがあるからです。
浮世絵専門の太田記念美術館(東京都渋谷区)は「浮世絵の世界を知るには最高の美術館で、コレクションは広範囲にわたっていて変化に富み、代表的な傑作をいくつも見ることができます」。ここは私も訪れたことがありますが、当館が所蔵している葛飾応為の「吉原格子先之図」が展示される日を心待ちしているところです。