次代を担う編集者にどうしても伝えておきたいこと・・・【情熱の本箱(90)】
読書が好きで、書評らしきものを連載している関係で、そして、企業のホームページやメール・マガジンの責任者を務めたり、社内報の編集に携わったりした経験があるので、編集、編集者には大いに興味がある。
『職業としての「編集者」――ビジネス書の「伝説」を超えられる! すべての出版人&出版・編集をめざす人へ』(片山一行著、エイチアンドアイ)には、ビジネス書の伝説的編集者の編集の二大要素――企画力と技術力――に関する卓見が凝縮している。
「本書は編集に関する論文ではない。編集者と著者の交遊録や回顧録でもない。『どうすれば、いい本、売れる本をつくることができるか?』という素朴な問いに対する、私なりの答えである。それは裏を返せば、『編集者とは?』といった命題に対する答えになるのかもしれない。したがって本書の後半は『ビジネス書の『構成』とは?』『前書きの書き方』『タイトルの付け方』『カバーデザインをどう考えるか』・・・といったハウツーになっている。これも私にとっては、『編集論』の一部なのだ」。
「編集者はモノづくりが仕事だ。二番手、三番手でも、『一番手を抜いてやる』という気持ちのない編集者に、たとえば次のような本はつくれない。『決算書の本っていろいろあるけど、あそこのが一番わかりやすいよね』」。「私は、『売れる本がいい本だ』という考えには基本的に反対する。しかし『いい本は必ず売れる』という考えでもない。『いったい、どっちなんだ!』と言われそうだが、あえて言うなら、『いい本はどの出版社で出しても絶対に惨敗しない』というところだろうか・・・。どんなに悪くとも、初版は売り抜く本である」。「私は『売れた本がいい本』だとは思わない。しかし、本も商品である以上、売れることを目指さない、考えない編集者は失格だと思う」。著者は、エディター(編集者)・シップを持った編集者であれ、と後進を励ましている。
編集者の適性とは何かを考えるために、著者は4つの設問を掲げている。●失敗を怖がらない決断力と行動力はあるか? ●何にでも首を突っ込む好奇心はあるか? ●夢と情熱を持っているか? ●「人間」が好きか?――細心にして大胆、そして何より人間が好き、これが編集者の条件だというのである。「もうひとつ、編集者にとって大切なことは、『聞き上手』であることだ。このことは非常に大切だと思っているので、あえて別項目にした」。「なお蛇足かもしれないが、このとき忘れてはならないのが『笑顔』である」。
ビジネス書編集者にとっての企画・構成力とは何か。「ビジネス書、実用書において、企画力は『構成力』と言ってもいい。いわば目次をつくる力である」。「編集者の仕事は多い。しかしそのなかで、編集者が固持しなければならないものは企画力だと私は思う。そこを外注してしまっては、もはやその人は編集者ではない。知人とのお喋り、テレビや映画・・・そういうものから何かひらめいて、書籍という『形』に昇華させることこそ、編集者の醍醐味ではないだろうか。百歩譲って、エージェントが間に入ったとしても、主導権は編集者が握るべきだと思うのだ」と、手厳しい。
近年の出版業界を巡る変化は目まぐるしい。「編集者は人材派遣業でもなければ、アイデア販売業でもない。自分で頭と手を動かして本をつくるのが、編集者なのである。時代が変わろうと編集技術が変わろうと、そこだけは手放してはならないと思う」。「電子の時代になると、これまで以上に企画力が問われるようになるはずだ。電子書籍には『絶版』という概念がない。また、紙では売れないが電子書籍では売れる企画もあるだろう。常に最先端にいるべきだとは言わないが、これからは確実に電子書籍が増えてくる。そのとき、頑迷に『紙』にこだわる編集者も、どうかと思う。・・・ただし――、このあたりが『矛盾している』と言われるのだが、私は紙の書籍が好きだ。あの手触り、外観などは電子書籍にはない魅力がある。だがそれは、編集者としてではなく、本好きの人間としての想いである」。この著者は、正直な人なのだろう。
本書は技術論にも多くのページが割かれているが、著者が一番強調したいことは、こういうことだろう。「本づくりで最も大切なのは『企画』である。ひらめきや思いつき、そして勘を、どういうふうに鍛えるか――。編集者なら、テクニック以上にそちらを考えてほしい。編集者が鍛えるべきなのは、誰も考えなかった斬新なアイデアを具現化する企画力、すでにあるテーマだがまったく異質の切り口で挑戦する企画力なのである。テクニックは、そのあとに自然とついてくる」。次代を担う編集者たちにこれだけはどうしても伝えておきたいという著者の熱い思いが迸っている、得難い本である。