榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

毎日10分は街の書店に行こう・・・【MRのための読書論(85)】

【Monthlyミクス 2013年1月号】 MRのための読書論(85)

毎日10分

「毎日、最低10分は街の書店に行こう」と呼びかける『10分あれば書店に行きなさい――「今の空気」を感じる。アイデアがどんどん湧いてくる』(齋藤孝著、メディアファクトリー新書)からは、書店の魅力が生き生きと伝わってくる。若い時にこの本を読んだ人と、読まなかった人との間には、人生の充実度において相当の開きが生じてしまうことだろう。

書店に行く習慣

著者は、先ず、書店に行く習慣をつけることを勧めている――「わずかな空き時間や待ち合わせの際はもちろん、通勤・通学の途中、ちょっと気分転換を図りたいとき、何かのアイデアが必要なとき、モチベーションが下がってきたときなど、サッと近所の書店に立ち寄ってみるのである。わずか10分でも毎日通い続ければ、知的かつ精神的に大きな変化が表れることを約束しよう」。著者と同じ習慣が染み付いている私としては、著者のこの提案に諸手を挙げて賛成する。

著者は、書店はオアシスだという――「そこにある一冊一冊には、古今東西の偉人たちの叡知と労力が注ぎ込まれている(そうではない本も多いが)。その山に囲まれるだけで、『仕事力』に必要なモチベーションと知性のシャワーを浴びているに等しい」。

さらに、「一工夫することで話のネタや企画のヒントの宝庫にもなる。読解力や判断力を鍛える『道場』にもなるし、潜在能力を引き出す『パワースポット』にもなる。そしてなにより、現代人に欠かせない『癒しの空間』にもなる」というのだ。

情報ならネットで検索すればいい、と言う人には、ネット情報は玉石混淆なので、真偽を確かめようとすると却って時間がかかってしまうと反論している。

そして、本を読まない人たちに対しては、「誰もがネットやケータイを駆使していながら、貴重な情報に驚くほど疎いことがよくある。感性のアンテナを立てていないため、情報があふれていてもキャッチできないのである」と、手厳しい。

購入の基準

書店に行ったら、「新書コーナー」が宝の山だと強調している。「今を生きている人に必要なあらゆる情報が、コンパクトにまとめられている」新書が、「ジャンルも主張もバラバラな本が同じ判型・同じカバーデザインでラインアップされ、一コーナーに結集している」新書コーナーは、「知性と現代が交錯するライブ空間」だとまで言い切っている。

そして、購入するか否かの基準は、「目次を見て『読んでみたい』と思う項目が複数あれば買えばいいし、2~3個ならその場で吸収して棚に戻せばよい」と単純明快だ。

心の拠り所

行きつけの書店を持つメリットを述べている。どの書店も一見、同じように見えるが、結構、それぞれの個性があるので、自分にとっての「居心地のよさ」を基準に、好みの書店を見つけ出すことを推奨している。「たとえば何かイヤなことがあったとき、『あの書店に駆け込んで忘れよう』と思えるなら、きわめて豊かな日々を送れるに違いない」というのだ。 

書店は望ましい上司

書店ほど部下にとって都合のいい「上司」はいないのだそうだ。「上司の代わりに叱ってくれるわけではないが、鼻っ柱を折りつつ心を折らない絶妙な『処方箋』が用意されているからだ。・・・本は、けっして読者を厳しく叱責したりはしない。周囲に人がいるなかで、恥をかかせるようなこともしない。あくまでも一般向けに書かれているので、ダメな部分を指摘されてもダメージが少ない。だから素直に、そして密かに反省し、ノウハウを吸収しようという気になれるのである。・・・ビジネスパーソンとして必要な能力や心構えを教えてくれる本もあるし、弱気になっている自分をあの手この手で励ましてくれる本もある」。