榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

熟年たちは頑張って吠えまくりましょう・・・【山椒読書論(114)】

【amazon 『輝ける熟年』 カスタマーレビュー 2012年12月5日】 山椒読書論(114)

輝ける熟年――人生の総仕上げはこれからです』(宮本まき子著、東京新聞)は、読んだ人間の心も体も元気にする本である。

熟年世代(団塊世代)の一員として、熟年世代はどうすれば元気になれるのか、熟年ジュニア世代(団塊世代の子供たちの世代)はどう振る舞うべきか、団塊世代の孫の世代はどうあるべきか――を提案しているのだが、小気味がよい、そして説得力のあるアイディアが詰まっている。

この本の魅力は、3つある。第1は、痛快無比のエッセイ集になっていること。自分が属する熟年世代に厳しく切り込んだかと思うと、返す刀で団塊ジュニア世代をバッサリ、さらに孫世代も切り捨てる。持って回った言い方をせずに、スバリと指摘するので、読んでいて気持ちがスッキリするのだ。

ビシッと言うが、ユーモアを忘れないところに、これまで酸いも甘いも噛み分けてきた熟年世代の余裕が感じられる。

「『俺を信じろ、結果を出せ!』と後進を引き連れてブルドーザーのように突進してきた人が、『定年』や『閑職』になったとたん『私の出る幕ではない』なんて精神的隠居を決めこまれるのは困るわけ。あなたが言ってきたこと、やってきたことで人生を変えた人たちもいるのだから、責任を持って『言動一致』を貫いてほしい」と、呼びかけている。

第2は、提案が年寄りの愚痴に終わらず、具体的で建設的なこと。

「(認知症を避けるには)他人とモメたりカッカと怒ったり、深刻に困ったり悩んだり、びっくりしたり、大笑いしたり、感動したりして脳の各部署への血流をよくすること。つまりボーッとひきこもっちゃダメ、テレビの前で根が生えてもダメ、せっせと外を遊び歩いて、『メシ・風呂・寝床』のときだけ家に戻る半ノラ猫生活こそ、老化防止の良薬だそうですよ」と嗾けている。

「気づかないうちに心にゴミを溜めてしまう人は大勢います。憎しみ、悔しさ、寂しさ、妬み、哀しみ、卑屈さなどは誰にでもあること。それをバネにがんばる人もいれば、陳列棚に飾って眺めては『自分ほど不幸な人間はいない』と嘆き悲しむ人もいます。適度なストレスは『単調な人生の香辛料』ですが、消化しきれずに長年溜めこんで、『心のゴミ屋敷』になっているのに気づかない場合もあります。熟年世代になったら残り時間のためにも、『心の大掃除』をしましょう。誰もあなたのかわりにストレスの山を片付けてくれません」と、「不満も不幸も大きな風呂敷に包んで押し入れに入れてしまえ」と発破をかけている。

第3は、どのエッセイも粒揃いであること。エッセイ集というと、内容が玉石混淆であることが珍しくないが、本書はどのエッセイも一定のレヴェルを維持している稀な例と言っていいだろう。

表現や比喩が巧みで、山葵が利いているので、ニヤリとしながら思わず頷いてしまうのは、同じ熟年世代だからだろうか。

人生に対して急速に消極的になってしまった同世代の熟年者に対して、「『何が哀しうて勝手に枯れとるんじゃ』と情けなくなります。・・・『ハロー、あなた起きてる?』と頭をノックしてやりたくなります。そんな自主的ひきこもりをやったら、そのうちテレビの前のお座敷ブタ、『半径500mの人生』になってしまうでしょう」と、手厳しい。

結論を一言で言えば、熟年世代も熟年ジュニア世代も孫世代も一読の価値がある。間違いなく、勇気づけられ、元気になれるはずだ。