若い人に真っ先に薦めたい本に出会った・・・【情熱の本箱(333)】
若い人から読むべき本を尋ねられたら、真っ先に、『2020年6月30日にまたここで会おう――瀧本哲史伝説の東大講義』(瀧本哲史著、星海社新書)を薦めたい、本書は、去る2012年6月30日に、東大の伊藤謝恩ホールで行われた、瀧本哲史の2時間を超える講義の一部始終を、質疑応答も含めて収録したものである。出席者は東大生に限定されることなく、全国から集結した約300名の10代、20代の若者たちであった。講演の最後で、瀧本は、未来を変えるため、これからの8年間、それぞれが本気で頑張って、「2020年6月30日に、またここで会いましょう。ボン・ヴォヤージュ!!」と若者たちに呼びかけたが、この約束は果たされることがなかった。なぜなら、瀧本が2019年に病のため、47歳で亡くなってしまったからである。
『武器としての決断思考』(瀧本哲史著、星海社新書)にも強烈な刺激を受けたが、本書は、瀧本の実際の語り口が味わえるので、臨場感が半端ではない。
「誰かすごい人がすべてを決めてくれればうまくいく、という考えはたぶん嘘で、『みなが自分で考え自分で決めていく世界』をつくっていくのが、国家の本来の姿なんじゃないかと僕は思ってます。・・・(ブッダは)自ら明かりを燈せ。つまり、他の誰かがつけてくれた明かりに従って進むのではなく、自らが明かりになれ、と突き放したわけです」。
「『何かすごいリーダーをひとりぶち上げるより、世の中を変えそうな人をたくさんつくって、誰がうまくいくかわからないけれども、そういう人たちに武器を与え、支援するような活動をしたほうが、実際に世の中を変えられる可能性は高いんじゃないか』ということ。つまり、『カリスマモデル』でなく『武器モデル』です」。
「次の日本を支える世代である彼らが自由人として生きていくために必要不可欠な『武器としての教養』を配りたいと思っています」。
「ブルームによれば、『教養の役割とは、他の見方・考え方があり得ることを示すことである』と。これは、けっこう超重要な定義でして。僕も同意見です」。
「ただ、自分で考えるためにはやっぱり、考える枠組みが必要なんです。その枠組みが教養であり、リベラルアーツであるということです。蘊蓄や知識をひけらかすために強要があるのではありません。自分自身を拠りどころとするためにも、真に『学ぶ』必要があるんですよ」。
「教養のなかで何を一番に学ぶべきか? 僕は、『言語』がもっとも重要だと思っています。言語といっても、仕事で役立てるために英語や中国語やプログラミング言語を勉強しろというセコい話ではありません。みなさんがふだん日常的に使っている言葉、日本語、そこに秘められているすさまじい力を知って、とことん磨きあげてほしいんですよ」。
「言語にはギリシャのアリストテレスの時代から伝統的に、2つの機能があると言われています。『ロジック』と『レトリック』です。ロジックというのは日本語で言えば『論理』ですが、もう少し意訳すると、前提が真なら結論も真となるような推論の型のことで、ざっくり言うと、『誰もが納得できる理路を言葉にすること』ですね。・・・言葉の機能のもう一つの『レトリック』は、日本語では『修辞』と訳されます。簡単にいえば、『言葉をいかに魅力的に伝えるか』という技法がレトリックになります。・・・どんなに正しいロジックでも、良いレトリックが伴わなければ、それは聞く人の心にきちんと届かないし、まして行動を変えることなどできません。つまり『言葉には力がある』ということは、究極的には。(オバマさんが)アメリカ合衆国の大統領になれるほどの力を持つ、ということでもあるんですね。はい」。
「民主主義の社会では、銃や鉄砲で政府を倒す必要はありません。まず『言葉』によって正しい認識にいたり、『言葉』を磨くことでその認識の確度を上げていく。そして『言葉』を使って相手の行動を変えていくことで、仲間を増やし、世の中のルールや空気を変えていくことが可能なんです」。
「つまり交渉とは、『自分の都合』ではなく、『相手の利害』を分析する。そのためには、『話す』のではなく『聞く』、そして、非合理な相手は『猿』だと思って、研究する(笑)」。
「(ベンチャー企業というのは)要は『3勝97敗のゲーム』なんですね。でもぜんぜん悲しむことはなくてですね、失敗した人はまた再チャレンジすればいいだけです。そうやって失敗と成功をグルグル回していって、社会を良くしていくのが、資本主義の素晴らしいところなんですね。人生もそうですよ。みなさんがいろんな分野でチャレンジし、分母の数を増やしていくことが重要で、そうしてみんながいろんな方法を試しているうちに、2、3個ぐらい成功例が出てくるんです」。
「大昔のヨーロッパの知識人は、ゲーテとかモーツァルトとかも、みんなフリーメイソンに入っていました。彼らがなぜ加入したかというと、フリーメイソンは当時支配的だったカトリックに対して批判的だったからです。『全知全能の神の教えに人間は従うべきである』というカトリックの教えに納得できない人たちが、『人間は理性を持っているのだから、その理性に従って行動すべきだ』と考えて集まった組織が、フリーメイソンなんですね。『神』のような超越した存在ではなく、人間の理性を重んじるという考え方には古くからの伝統があって、彼らは人間の可能性を信じていたんです」。このフリーメイソン論は、私にとって勉強になった。
「僕が推奨する『ゆるやかなつながりの秘密結社』にも、そういう『意見は違うけれど、ある目的のための行動には協力する』という考え方が必要なんです。みんなの立場はそれぞれ違うから、全員を一つの意見に統一するのはむずかしい。でも、ある一つの重要事項に関しては、みんなが組むことで世の中を変えていく――そういったマインドと仕組みが必要不可欠なんですね。・・・交渉思考をうまく使うことで、自分らと意見も思想も違う人たち、敵対する人たちすら仲間にしながら、社会を正しい方向に進めるためのアクションを起こしていくことができるようになるんですね」。この箇所は、なかなか統一戦線を組織できない野党の議員たちに読んでもらいたい。
「僕はですね、来世がある宗教を信じていないんですよ。科学的に来世があることは証明されていないので、『来世がない』ことを前提に動いたほうがいいと思っているんですね。そう考えると、『自分の時間』という資源はけっこう有限なので、なるべくその資源を活用するようにしたいわけですよ」。
若者だけでなく、私のような老兵も勇気づけられる一冊である。