第5水準のリーダーシップと針鼠との関係・・・【リーダーのための読書論(10)】
リーダーたる者、ベストセラーとなった前著『ビジョナリーカンパニー』を読んでいなくとも別に支障はないが、続編の『ビジョナリーカンパニー(2) 飛躍の法則』(ジェームズ・C・コリンズ著、山岡洋一訳、日経BP社)を読んでいない場合は、リーダー失格と宣告されても反論できないだろう。前者で取り上げられた企業がいずれも最初から偉大な企業であるのに対し、後者では良い企業が飛躍して偉大な企業になる方法が追究されているからである。
良い企業から偉大な企業へ飛躍を遂げ、偉大な実績を15年以上に亘って維持してきた企業と、偉大な企業となったものの偉大な実績を維持できなかった企業との比較で明らかになったのは、「第5水準のリーダーシップ」という思いがけない結論であった。第1水準(有能な個人)、第2水準(組織に寄与する個人)、第3基準(有能な管理者)、第4水準(有能な経営者)と段階を上り、最高の第5水準が「第5水準の経営者」だ。「第5水準の経営者」とは、個人としては謙虚だが、組織人としては並外れた野心を持つ指導者を意味している。そして、偉大な企業に成長した企業は全て、その転換期にこの「第5水準の経営者」に率いられていたというのだ。
「第5水準の経営者」が偉大な企業を目指す時、欠かすことのできないのが「針鼠の概念」だ。本質を深く見抜き、本質は単純であることを知っており、単純明快な戦略を選択する考え方を、著者は「針鼠の概念」と読んでいる。具体的には、「自社が世界一になれる事業は何か」、「経済的原動力になれる事業は何か」、「情熱を持って取り組める事業は何か」を考え抜けというのである。
同書の中で、文句なく偉大な企業の一つと認定されている鉄鋼会社ニューコアの名経営者の手に成る『真実が人を動かす――ニューコアのシンプル・マネジメント』(ケン・アイバーソン著、岡戸克、東沢武人訳、ダイヤモンド社。出版元品切れ)は、内容の濃いリーダー必読の書である。「第5水準の経営者」の考え方と行動の実践例を鮮烈に学ぶことができるからである。
MRが個人のレベルで第5水準のMRを目指そうとする時、『なぜあのMRは顧客に好かれているのか?――イケてるMRの48手』(池上文尋著、医薬経済社)が、さまざまなヒントを与えてくれる。メリハリをつけ、独自性を発揮し、持ち味をアピールすることによって、顧客のマインド・シェアを獲得している48名の優秀MRの発想、行動、強みが、著者のインタヴューによって明らかにされている。
「テーマ別訪問MR」、「楽しく仕事する仕組み作りMR」、「MS活用型MR」、「ゴルゴMR」、「世話好きおじさんMR」、「逆張りMR」、「キャリアサポートMR」、「患者集客MR」、「副作用マニアMR」、「クリニカルパスMR」、「ランチェスター戦略MR」、「代替医療MR」などの戦略・戦術が具体的に紹介されているが、例えば「ナンバー2戦略MR」では、ターゲティング方法を少し見直すだけで新しい重要顧客が見えてくることが示されている。また、「他業界発想MR」では、異業種出身MRの製薬業界の常識にとらわれない強みが指摘されている。
巻末の「第7章 MR進化論」の「MRの将来が見えない」、「表敬訪問MR活動はなくなる」、「なぜ、廊下に立たないMRが売上をあげるのか?」、「MRの未来図」は、著者一流のワサビが利いていて、刺激的である。
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