榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

全国最下位営業所の挑戦の内幕・・・【リーダーのための読書論(24)】

【医薬経済 2009年3月1日号】 リーダーのための読書論(24)

新任の営業所長はもちろん、ヴェテランの営業所長、営業所長を目指している人たちにとっても必読の書、それが『ビリーの挑戦――最下位営業チームがトップになった』(山本藤光著、医薬経済社)だ。MRの世界が舞台になっていること、著者の体験が基になっていること、全篇が会話で構成され、臨場感に溢れていること――これらの特長を備えた本書は、類書を圧倒している。

3月、R製薬の全国最下位、釧路営業所に新任(昇進)の営業所長が赴任するところからシーンが始まる。この営業所の荒廃ぶりは相当なものだ。年度末だからといって、無茶な数字を積み上げる。所長、2名のサブリーダー、6名のMRの気持ちはバラバラで、その場にいない人間の悪口が横行し、全国最下位という危機感は皆無であった。

札幌支店長から「全国最下位の生産性を、何としてでも、1年間で立て直してほしい」と使命を託された漆原所長は、何から着手するのか。釧路営業所は釧路地区と全員が駐在の帯広地区で構成されているので、コミュニケーションを図るためノート・パソコン9台の支給を支店長に依頼する。さらに、全メンバーに対する1週間の合宿研修の許可を得る。これらは、「まず、メンバーの意識と行動を変えることから始める。意識と行動が変われば、業績は自然についてくる。しかし、意識と行動は、命令では変わらない。焦らずに、彼らの意識と行動を変えるのが、リーダーの仕事」という漆原の信念に基づいている。

MRが目指す目標と現在の実力とのギャップをどう埋めるのか。まず、各MRの綿密な顧客別アクション・プランの作成が必須であること、メンバー一人ひとりの頑張りが営業所全体の評価を底上げすることを、全員に自覚させる。

斬新なアイディアが次々と導入されるが、一際、目を引くのが、「メモリアル病院の新設」である。漆原の「近々、帯広管内にできる新しい病院の担当者を募集する。その病院は、薬事審議会がない、いつでもドクターと一対一の面談が可能、しかもドクターには転勤がない」という発言に、当然のことながら、全員が手を挙げる。きょとんとしている皆の前で、ホワイト・ボードに○と×をランダムに記入し、「いいか、これは全部、開業医だ。新薬の採用は即決してくれる。しかも、代理店のサポートも得られる。○は重点開業医だ。これらを囲んだヒトデのような形が、そのMRのメモリアル病院となる」、「病院の経営者は君だ。しっかりと顧客を見極め、10院ほどを一まとめにしてもらいたい。今後の実績は、○○(MRの名)メモリアル病院として出力する」。見事な発想の転換である。

漆原は、MRとの、計画的な朝から晩までの一日同行を最も重視する。この同行を通じて、ターゲット・ドクター攻略は初恋の女性へのアプローチと同じこと、思い切って「先生は、なぜ○○(競合品)を使用されているのですか?」、あるいは「なぜ当社の○○を使用していただけないのですか?」と質問することが大切なこと――などを、MR自らが体験的に学んでいくのだ。

釧路営業所が、どれほどの進化・飛躍を遂げたかは内緒にしておくが、1つの成功例をチームに広げる、定着させる、そして、チーム内に良質な競争を持ち込むこと、すなわち、MRのレヴェル・アップのための知的な環境整備こそが、リーダーの任務なのである。