榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

二宮金次郎は低成長・人口減時代の成功モデルたり得るか・・・【リーダーのための読書論(48)】

【医薬経済 2011年3月1日号】 リーダーのための読書論(48)

代表的日本人』(内村鑑三著、鈴木範久訳、岩波文庫)には、何とも魅力的な日本人が取り上げられている。「新日本の創設者・西郷隆盛、封建領主・上杉鷹山、農民聖者・二宮尊徳、村の先生・中江藤樹、仏僧・日蓮上人」の5人であるが、海外の人々に向けて日本人も捨てたものではないぞということを、外国語(英文)で示そうとした若き内村鑑三の意気込みが伝わってくる。

例えば、尊徳(金次郎)の少年時代は、伝記『報徳記』(富田高慶著)に基づき、このように描かれている。「父は、ごく貧しい農夫でした。15歳(満年齢)の時、親を亡くし、伯父の世話を受けることになりました。この若者は、できるだけ伯父の厄介になるまいとして、懸命に働きました。一日の全仕事を終えた後の深夜の、孔子の『大学』の勉強を伯父にこっぴどく叱られ、それ以後、尊徳の勉強は、伯父の家のために毎日、干し草や薪を取りに山に行く往復の道でなされました。休みの日は自分のものであっても、遊んで過ごしてしまうことはありませんでした。最近の洪水により沼地に化した所を村の中で見つけ、沼から水を汲み出し、底をならし、こぢんまりした田んぼになるようにしました。その田に、いつも農民から捨てられている余った苗を拾ってきて植え、夏中、怠らずに世話をしました。秋には、二俵もの見事な米が実りました。一人の孤児が、慎ましい努力の報酬として、人生で初めて生活の糧を得た喜びのほどは、容易に想像されます。この秋、尊徳が得た米は、その後の波瀾に富んだ生涯の開始に当たり、その資金になりました」。

二宮尊徳「語録」「夜話」抄』(斎藤高行・福住正兄著、佐々井典比古編訳、心交会・やまと文庫。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)からは、尊徳の肉声が響いてくる。

二宮金次郎はなぜ薪を背負っているのか?――人口減少社会の成長戦略』(猪瀬直樹著、文春文庫)は、尊徳を低成長・人口減に苦しむ江戸後期の経済を改革する新たな金融モデルを作り上げた卓越したコンサルタントと位置づけ、今こそ尊徳の手法「報徳仕法」に学ぼうと呼びかけている。

その手法の第1は、「分度」の発明である。財政再建の実績を認められ、下野国・桜町領(現在の栃木県真岡市)の再建を委ねられた尊徳は、年貢収入の実績データに基づいて桜町領の年間支出限度額を決めた。これが分度であり、分度が明らかになれば、これを上回る収入があったとしても、それは桜町領の復興資金として投資される。

手法の第2は、「五常講」の考案である。上記の復興資金は荒れ地開拓のための用水堰などを造る土木事業や、各農家が抱えている高金利の借金を整理し返済させるための低利融資制度の元本などに使われる。この低利融資制度が五常講であり、五常講で農民を借金から解放し、返済される元金と「冥加金」(礼金)を複利で運用し、それを投資して公共事業を進め、さらに低利貸し付け金と冥加金を増やすというサイクルを繰り返すのだ。

公共事業により生産環境を整え、一人当たりの生産高を増やし、利益率を上げさせる。さらに、やる気を起こさせるために投票でグループ・リーダーを選び、積極的に表彰して自己責任、共同責任の自覚を促す。報徳仕法は、尊徳の気迫に満ちた廃村復興プロジェクトであり、今日でも、いろいろな場面で応用が可能だと思う。