榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

リリー・マルレーンを最初に歌った歌手の数奇な運命・・・【山椒読書論(419)】

【amazon DVD『リリー・マルレーン』 カスタマーレビュー 2014年2月21日】 山椒読書論(419)

哀調を帯びた、ゆったりとしたテンポの「リリー・マルレーン」という歌は、いつ聴いても心に沁みてくる。

かつて戦争があった。ドイツ軍兵士が熱烈に愛した一つの歌があった。やがて、戦線を超えて敵側のイギリス兵やアメリカ兵もその歌を口ずさむようになった。

「リリー・マルレーン」を歌ったマレーネ・ディートリッヒのことはよく知られているが、実は、この歌を最初に歌ったのは、ドイツ人歌手、ララ・アンデルセンであった。

リリー・マルレーンを聴いたことがありますか』(鈴木明著、文春文庫。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)には、こう記されている。「1941年秋のはじめ、彼女は突然、思ってもみないファンレターの洪水に見舞われた。それは全く、鉄砲水のように、物凄い勢いで、アッという間に彼女を呑みこんでしまった。宛名の名前には『ララ・アンデルセンさま』にまじって、それ以上の数で『リリー・マルレーン樣』というのがあった。差出人はすべて前線の(ドイツ軍)兵士たちで、差出地はアフリカが一番多かった」。彼女が2年半前に吹き込んで、もうとうに忘れていた「リリー・マルレーン」が前線の兵士たちから熱狂的に支持されたのである。

アンデルセンの写真に接した著者は、「ララ・アンデルセンに対して、僕はかなりふけこんだ、小太りのドイツ女性を想像していたのだが、僕のあらゆる予想を裏切って、彼女は若く、美しく、哀しく、そして優しかった」と述べている。

「何人か(の男性)への愛と、犠牲と、自己嫌悪の後に彼女を訪れたのは、降ってわいたような『リリー・マルレーン』の大ヒットであった。だが、この大ヒットは彼女に決して幸運をもたらさなかった。いや、ナチにとって、彼女の素晴らしい歌唱は、かえって敵としての役割を果してしまうことを、ナチはすぐ感づいていた」のである。

「1972年、彼女は『空には、たくさんの色がある』という自伝を書いたのである。それはまことに彼女らしく、ごくつつましやかな、スターらしい気どりのない、いわば平凡な記述の多い自伝だった、と、この(当時の新聞)記事の書評には書かれている」。この自伝を基に製作された映画が『リリー・マルレーン』(DVD『リリー・マルレーン』<ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督、ハンナ・シグラ、ジャンカルロ・ジャンニーニ出演、パイオニアLDC。販売元品切れだが、amazonなどで入手可能>)である。自伝そのままでなく、いくらか脚色が施されているが、アンデルセンの数奇な生涯を知ることができる。そして、何よりも、ヒロインを演じるハンナ・シグラが哀愁を込めて歌う「リリー・マルレーン」を堪能することができる。