榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

脳という屋根裏部屋を知り、操縦し、メンテナンスしよう・・・【続・リーダーのための読書論(64)】

【ほぼ日刊メディカルビジネス情報源 2016年4月18日号】 続・リーダーのための読書論(64)

ホームズの推理力

シャーロック・ホームズの推理力は素晴らしい。自分にもあのような推理力が備わっていたら、仕事の面でも私生活でも大いに役立つことだろう。この願いに応えてくれる本が登場した。『シャーロック・ホームズの思考術』(マリア・コニコヴァ著、日暮雅通訳、ハヤカワ文庫)は、ホームズの思考法を最新の実験心理学と脳神経科学の視点から追究している。

マインドフルネス

ホームズの推理力は、注意力、観察力、記憶力、洞察力、分析力、想像力に支えられていることが明らかにされていく。ホームズの思考法を理解するキーワードは「マインドフルネス」と言ってよいだろう。「『マインドフルネス』とは、つねに『頭脳の影響力』があり、注意深さがある状態のことであり、世界の真実を積極的に観察するのに欠かせない。モチベーションは、積極的な関与の欲求や、やる気という意味だ」。

脳という屋根裏部屋

『緋色の研究』の中で、ホームズがワトソンにこう言っている。「人間の頭脳というものは、もともと小さな空っぽの屋根裏部屋みたいなもので、自分の好きな家具だけをしまっておくようにできているんだ」。

著者は、下記の順番で、自分の脳という屋根裏部屋を扱うことを勧めている。●脳という屋根裏部屋を知る。「あなたの脳はあっという間にたくさんの無用なガラクタでいっぱいになるので、たまたまその情報が役立つとしても深く埋もれてしまい、ないときと同じように利用できなくなるからだ。その時点で思い出すことのできることだけが、私たちの知っていることなのだと、留意しておかなければならない。言い換えるなら、必要なときに思い出せないなら、どんなに多くの知識があっても役に立たない」。●脳という屋根裏部屋にしまう――観察する力をつける。この段階の留意点は、選択力を持つ、客観性を持つ、包括的に見る、積極的に関与する――の4つである。●脳という屋根裏部屋の探求――想像力を身につける。「シャーロック・ホームズは私たちに、役に立たないガラクタを捨て、無用の道具でとりちらかさぬよう箱を慎重に整理して、脳という屋根裏部屋を整理整頓しておくように迫った」。「本当の解決法のためには、想像力が必要だ」。想像力は本質を見抜く力に繋がり、他者とのコミュニケーションにおいても重要である。●脳という屋根裏部屋を操縦する――事実に基づく推理。この段階の留意点は、重要なことと偶然に過ぎないことを区別する、ありそうもないことは不可能なこととイコールではない――の2つだ。●脳という屋根裏部屋をメンテナンスする――勉強に終わりはない。「つねに学びつづけるのはいいことだ。頭を鋭く機敏な状態に保ち、ひとりよがりに陥るのを防いでくれる。だが、ホームズにとって勉強とは、それ以上の意味をもつ。ホームズ的感覚でいう勉強とは、たゆまずに自分自身を刺激し、・・・私たちの習慣となってしまった振る舞いに絶えずゆさぶりをかけ、自分が何かに熟達していようとも、携わるすべてに『マインドフル』でありつづけ、熱意を失わずにいるための方法であることを、忘れてはならない」。学び続けるのに手遅れということはない。そして、成功から学ぶように、失敗からも学ぶことが必要なのである。