若い世代への激励の書――情熱、リーダー、仕事、SNSについて・・・【続・リーダーのための読書論(91)】
『死ぬまで、努力――いくつになっても「伸びしろ」はある』(丹羽宇一郎著、NHK出版新書)は、若い世代への激励の書である。
情熱について――。「情熱は、仕事をする上で一番大切なものです。最近は『社会人にはコミュニケーション能力が必須』と言われるようになり、コミュ力やプレゼン力を高める授業に力を注いでいる大学も増えているようですが、いくら高度なコミュニケーション能力を身につけても、仕事に対する情熱がなければ、ただの宝の持ち腐れです。・・・『自分はコミュ力やプレゼン力が弱い、どうすれば会話が上手くなるのだろう』などと悩むのは時間の無駄。そんな暇があったらもっと全力で仕事に情熱を注ぐべきです」。私の一番好きな言葉は、「情熱」なので、この指摘には大きく頷いてしまった。
リーダーについて――。「私はリーダーの立場になった人には、まず部下の『生活履歴』を頭に入れることを考えてほしいと言ってきました。ここで言う生活履歴とは、どんな大学のどんな学部を出たかといった学歴のことではありません。これまでどんな仕事をしてきたのか、どんな姿勢で仕事に取り組んできたのかということから、家族、生活状態まで、仕事に関連するすべての情報のことを指します。・・・彼らが置かれている状況を把握し、部下の立場に立って仕事のペースや内容を考えることも大事なことです」。私も、入社希望者の面接時、生活履歴を聴取すること、中でも、「本人が私生活面で実現したいこと」を聴き出すことを重視した。これから一緒に働く仲間として、その夢の実現を共有したかったからだ。
仕事について――。「仕事によって得られるお金が、必ずしも人間を幸せにしてくれるものでないとしたら、仕事の本当の喜びとはなんでしょうか。それは、チームが一丸となって目標に向かい、それを成し遂げたときに得られる『みんなと分かち合う喜び』です。人間とは、あるレベルに達するとこうした『無形の幸せ』を求めるようになります。それに対して、お金や、お金によって手にできる冷蔵庫だとか車だとか家だとか、それらはすべて『有形の幸せ』です。『無形の幸せ』はある年齢に達したからわかる『成熟した幸せ』とも言えるかもしれません、・・・充実した人生を送りたいと思ったら、身体が動くうちはお金ではなく、(NPO団体のボランティア活動などの)社会・人とつながる『仕事』を続けたいものだと私は考えています」。私の長い企業人時代を振り返っても、全く同感である。
SNSについて――。「私のように政治に対して歯に衣着せぬ意見を言う人間はみんなから敬遠され、SNSで採り上げてくれる人すらいません。しかし、みんなが黙っていて波風が立たない社会というのは、じつは非常に危険な状態にあると言えます。ドイツの政治学者エリザベート・ノエル=ノイマン(1916~2010年)が書いた『沈黙の螺旋理論』という本をご存じでしょうか。この本では世論形成のプロセスが、およそ次のように説明されています。<人間はもともと孤立を恐れる傾向があるため、自分の意見が少数派・劣勢だと感じると黙ってしまう。逆に自分の意見が多数派・優勢だと感じた場合は、どんどん声が大きくなる。その結果、実態よりも(一見)多数派の意見が世論の中心をしめているように見えてくる>。この説明は、私たちが暮らしている今の日本社会の姿に、ぴったりと当てはまっているように思えます。では、どうして激しい意見がでてこない社会になってしまったのでしょうか。理由としてまず考えられるのが『同調圧力』です。同調圧力は現実社会にもありますが、ネット社会にも強力な同調圧力が存在します。たとえば、SNSにアップされた誰かの意見に対し、『自分はそうは思わない。あなたの考えは間違っている』と反対意見を述べたとしましょう。その誰かの意見が『いいね』を多く集めている多数派の発言だったとしたら、あなたの反対の声はみんなからコテンパンに反撃されるか、無視されることを覚悟しなければなりません。なぜならそれは、現状に波風を立てる行為だからです。空気を読まない発言をすると排除され、やがては孤立してしまう。現実世界も同じですが、ネットではそれが簡単に行われます。そのため、どうしてもSNSの発言は、自分に都合のいい答えを示してくれる人の言葉には同調し、そうでない人を排除する方向へと向かいがちなのです」。
「(フェイクニュースや)『Alternative facts(もうひとつの事実)』『Post Truth(真実を軽視し、感覚を優先すること)』という言葉が当たり前に使われるようになったことも大問題です。・・・つまり、情報が嘘か真実か定かでなくても真実の如く通用する時代が到来したということです」。
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