小さな会社でシンデレラに出会った・・・【あなたの人生が最高に輝く時(1)】
茨城のシンデレラ
シンデレラに出会ったのは、彼女が24歳で、まだ肌寒い春先のことであった。ノックして面接室に入ってきたAさんは、ずらりと居並ぶ面接官を前にして緊張を隠せない。清潔感のある、すらりとした長身がかすかに戸惑っていた。
面接の型どおりの質疑応答が終わりに近づき、ある面接官から「あなたにお尋ねしたいことは以上ですが、あなたのほうから何か質問がありますか?」と言われたAさんは、意を決したかのように、こう発言した。「エージェント(人材紹介会社)の方から、御社は営業経験ありが条件とお聞きしたのですが、これまでお話ししたように私には営業経験がございません。やはり、合格は無理でしょうか?」。
「あなたのこれまでのお仕事は中学の登校拒否生徒の自宅を訪問して、登校できるように手助けすることでしたね。あなたがこれまで担当した生徒のうち、何人が登校できるようになりましたか?」との問いに、Aさんは申し訳なさそうに「3名しか登校させられませんでした」と答えた。「あなたの仕事は、並みの営業より大変な仕事ですよ。よろしい! 特殊な営業経験ありと見做すことにしましょう」と告げると、Aさんの顔がパッと明るくなった。
後で分かったことだが、市の財政的な事情で登校拒否生徒を手助けする業務が廃止となるため、Aさんは必死だった。いくつかの会社の面接を受けたものの採用内定を得ることができず、最後に辿り着いたのが、この小さなCSO(MR業務受託・派遣業)だったのだ。
MRを目指して
晴れてCSOに入社したAさんは、同時に採用となった5名の男性と共にホテルに泊まり込みで(もちろん、男女別室)、MR(医薬情報担当者)認定試験の受験勉強に励むこととなった。
これまで異業種で働いてきた人、すなわちMR未経験者がMRとして活躍するには、MR認定証の交付を受けることが望ましい。MR認定証がなくてもMRの仕事はできるが、ほとんどのMRがMR認定証を持っているのが実情だからである。そこで、一般的には製薬企業あるいはCSOで、MRになるための必須科目(薬理学、薬剤学、疾病と治療、医薬概論、PMS<市販後調査>、添付文書)の教育を300時間(約2カ月間)受講し(これが受験資格)、年1回、12月に実施されるMR認定試験の合格を目指すわけだ。因みに、さらに150時間以上の実務教育を修了し、MR認定試験に合格し、教育修了後に6カ月間の実務(MR)経験を完了した人にMR認定証が交付される。この交付を受けて初めて、一人前のMRとして認められることになる。
なお、この必須科目は2012年度から見直される予定なので、公益財団法人・MR認定センターのホームページ(http://www.mre.or.jp/)で確認してほしい。
張り切りMR
Aさんは、MR認定試験の勉強も頑張ったが、MRになってからも猛烈に頑張った。MRとしての年収が前職(これは、あまりにも安過ぎた)の3倍に跳ね上がったこともあるが、Aさんにはもっと大きな夢があったのだ。CSOのコントラクトMR(正社員)として契約先の製薬企業で3年間頑張り、MRとしての実力が評価されれば、その製薬企業のMR(正社員)に転籍する道が開かれていたからである。
3年後に製薬企業に転籍したAさんは、その製薬企業のエース的存在であるMRのS君と目くるめくような恋に落ち、遂に結婚式の日を迎えたのである。S君はAさんを上回る長身で、超難関私立大学時代にゴルフ部主将を務めた爽やかな好青年。純白のウェディグ・ドレスに包まれ、S君の隣で幸せいっぱいのAさんから、「社長が、営業経験のない私を採用してくださったおかげで、私の運命が大きく変わりました! これからもMRとして二人で頑張っていきます」と言われた瞬間、目の前のAさんは現代のシンデレラなのだと気がついた。