海外ミステリ・冒険小説を原書で読み耽る読書大好き人間――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その170)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(257)】」
【読書の森 2024年7月31日号】
あなたの人生が最高に輝く時(257)
●『すべては今日から』(児玉清著、新潮社)
NHK・BSの書評番組「週刊ブックレビュー」は、長いこと、土曜朝の私の最高の楽しみであった。3名の書評ゲストをリラックスさせ、ユニークなコメントを引き出す司会の児玉清が、大の読書好きであることは、その語り口から窺われた。
ところが、今回、『すべては今日から』(児玉清著、新潮社)を繙いて、その本好きが尋常のレヴェルではないことを知り、唖然としてしまった。読みたい本が翻訳されるのを待ちきれずに、英語版の原書を購入して、次から次へと読み耽る毎日だったというのだ。
児玉が大学でドイツ語を専攻しようと決めたのは、シュテファン・ツヴァイクの『人類の星の時間』を読んだ時だと書かれている。私もツヴァイクの『ジョゼフ・フーシェ』によって、読書の本当の面白さに目覚めた人間である。同じようにツヴァイクから強烈なインパクトを受けながら、児玉は海外ミステリ・冒険小説の世界にのめり込んでいく。一方の私は、彼とは異なる分野の読書の森に分け行っていったのだから、何とも不思議なことだ。
『すべては今日から』の90%は、海外ミステリ・冒険小説への熱い思いと書評で占められている。これらの分野の愛読者には堪えられない一冊である。