週刊誌編集長が書いた本は、業界外の人間にも面白い――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その250)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(337)】
●『働く、編集者――これで御代をいただきます。』(加藤晴之著、宣伝会議)
向上心の塊のような、ずっと年下の友人Yに薦められた『働く、編集者――これで御代をいただきます。』(加藤晴之著、宣伝会議)は、週刊現代の現役編集長(本書出版当時)の手になるものだが、滅法面白い。
その面白さの源泉は、3つある。
第1は、著者の攻めの姿勢である。加藤が編集長を務めた2年間は、権威・権力を持つ者たちのスキャンダルを暴く記事が続々と掲載され、それが裁判を引き起こすという、週刊現代の疾風怒涛の時代であった。「言論・報道の自由というものは、つねに言論・報道の自由を勝ち取るために努力しつづけなければ、自由な言論による批判を封殺したい公権力や政治家たち、横暴な権力を振りかざす勢力によって、どんどん押され込まれていく」という使命感が彼を支えていたのだ。「スキャンダルを書くことが公共の利益とどう合致するか、そこはわれわれが考えるところだけど、スキャンダリズムそのものはきっと『永遠に不滅』なんです」と語っているが、加藤は文字どおり有言実行だったのである。
第2は、現場重視である。「編集者とライター(書き手)はほとんど同じような仕事じゃないかと思われがちですが、じつはかなりベクトルが違うのです。物語を書く小説家、事件現場におもむき犯罪を描くジャーナリスト、東京レストラン戦争の最前線をリポートするグルメライターなどの書き手と、そうした書く人間の傍らで、書き手を鼓舞したり、ディレクションしたりする編集者とは、まったく違う職業です。編集者、あるいはルポライター、小説家、漫画家などの書き手になろうと思うのであれば、いちばん大切にしてほしいのは、『現場感覚』です」。インターネットで情報が容易に収集できるからこそ、生の「現場感覚」が大切だ、編集者の仕事は「現場」を経験することで磨かれるというのだ。
第3は、後進育成への思い入れである。「要領よく生きていくより、若いうちしかできない、思い切りのいい失敗を数多く体験することによって、自己を研磨し、揺るぎのない『編集者としての軸』を削り出してゆくことが、私はなによりも大切なことだと思います。時間は、有限。心身ともに若いときのみずみずしい経験は、年をとったら味わうことはできません」。
長年に亘り講師を務めてきた「編集・ライター養成講座」の著者の授業の実際が具体的に紹介されているが、これが実に刺激的かつ実戦的なのだ。
さらに、駆け出し編集者向けの、そして副編集長・デスク(編集次長)・編集長クラス向けの「プロ編集者はそのときどうする!?」というテーマの質疑応答に、かなりのページを割いている。
プロの編集者だけでなく、我々のような業界外の人間も学ぶことが多い本である。