『徒然草』は、世の中を生き抜くための実用書――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その288)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(375)】
【読書の森 2024年11月25日号】
あなたの人生が最高に輝く時(375)
●『転ばぬ先の転んだ後の「徒然草」の知恵』(嵐山光三郎著、集英社)
『転ばぬ先の転んだ後の「徒然草」の知恵』(嵐山光三郎著、集英社)は、兼好法師の随筆『徒然草』を、世の中を生き抜くための実用書として見直そう、と提案している。
例えば、第188段の<一事を必ず成さんと思はば、他の事の破るるをも傷むべからず>という一節は、「何かをしようと思えば、必ず人からいろいろなことを言われる。中傷を受け、悪口を叩かれ、命まで狙われる。中傷、嫉妬を覚悟の上でなければ、一事を成すことはできない」と、兼好が自分の体験を踏まえて断言しているというのだ。
また、第167段の一節、<我が智を取り出でて人に争ふは、角のある物の、角を傾け、牙ある物の、牙を咬み出だす類なり>は、才能を振りかざして人と争うなという戒めだというのである。
第85段の説明では、「私は、若い新入社員に対し、『尊敬できる上司をまず捜し出せ。そしてその人のことを徹底的に真似しろ』と説いている」と書いている。
こう言われると、高校時代にてこずった『徒然草』が身近に感じられるから不思議だ。組織における人物論としても、その解釈は高校の古典の授業と違って新鮮である。
著者は、『徒然草』を単なる世捨て人の随筆ではなく、若き親王のために書かれた君主論と位置づけているが、著者の兼好法師への思い入れが伝わってくる一冊である。