榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

MRの情熱的な生き方の研究・・・【MRのための読書論(15)】

【Monthlyミクス 2007年3月号】 MRのための読者論(15)

ギャツビーの情熱的な生き方

月光の中、入り江の対岸にともる緑色の灯を見つめながら、震える両手を差し伸べていたギャツビー氏とは何者なのか? 大理石のプールがあり40エーカーも芝生がある大邸宅に、着飾った大勢の男女を招いて、夏の間中、毎夜のように豪華なパーティを開くギャツビー氏とは何者なのか?

グレート・ギャツビー』(フランシス・スコット・フィツジェラルド著、村上春樹訳、中央公論新社・村上春樹 翻訳ライブラリー。あるいは、野崎孝訳、新潮文庫。村上春樹の新訳が評判だが、野崎孝の訳も味わいがある)の主人公ジェイ・ギャツビーは、貧困の中から身を起こし莫大な富を築き、かつて貧しいが故に結ばれることのできなかった良家の美しい娘デイジーに、今も熱い思いを寄せている。デイジーは資産家と結婚しているが、夫に愛人がいるため、その生活は決して満ち足りたものではない。5年ぶりにデイジーと念願の再会を果たしたギャツビーは、デイジーをついに手中にできると確信するが、幸せは指の間からこぼれ落ちていく。

憧れの女(ひと)を手に入れるというただそれだけの目的のために、世間の裏道を歩み、泥にまみれ、全知全能を振り絞って、巨大な富を築き上げたというのに、デイジーはギャツビーが心の中で織り上げた夢の女に過ぎなかったというのか。

MRの情熱的な生き方

ギャツビーの行動は、一見、貧しい若者の立身出世のための行動と見られがちだが、ギャツビーにとって、世間的な成功は目的でなく、あくまでも手段に過ぎない。彼の目的は、デイジーという一人の女性に象徴される夢の実現である。彼はひたすらその夢を追い、夢の実現に全てを懸けたのだ。

男を測るものさしは人によってさまざまであろうが、自分の夢を持ち、その夢の実現に向けて力の限り挑戦しているか否かは、その一つになり得ると思う。ロマンは常に男のものである。

ギャツビーほど情熱的に生きることは無理としても、MRもそれなりに情熱的に生きることはできる。では、どうすればよいのか。

●第1のステップは、目標を定めることだ。あなたが生涯を懸けて成し遂げたいと思うことは何か。たった今、目を閉じて、自分は何をしたいのか考えてほしい。何でも好きなことができるとすれば、あなたは人生をどう使いたいのか。愛、仕事、昇進、自己啓発、教養、趣味、資産、家庭、健康、そのほか、どの分野でもいい、他人には馬鹿げて見えることでもいい。目標が決まったら、それを文章にして、はっきりと書き表してほしい。夢がかなった情景を頭の中にはっきりと思い描きながら、文章にすることがポイントだ。
●第2のステップは、期限を設けることだ。達成期限のない目標なんて、目標とはいえない。期限が定まったその瞬間から、全てのことが目標実現に向けて確かな足取りで歩み始める。
●第3のステップは、目標達成のための戦略を明確にさせることだ。戦略とは目標を実現させるための作戦といっていいだろう。
●戦略が決まったら、次の第4ステップで、戦術を立てる。戦術とは戦略を遂行するのに必要な、具体的な行動計画といえるだろう。
●最後の第5ステップは、戦術に沿って、勇気を奮い実行あるのみだ。

この5つのステップは個人だけでなく、組織の目標達成にも有効だと思う。

『グレート・ギャツビー』のこのような読み方は邪道かもしれないが、自分の夢を文章に書き表したその時から、間違いなく、あなたの情熱的な生き方が始まる。ともあれ、たった今から、心ときめく夢の実現に向けて、力の限り漕ぎ進んでいこう。人は年を重ねることで老いるのではなく、情熱を失った時、朽ちていく。

『グレート・ギャツビー』の作者の生き方

『グレート・ギャツビー』のようなロマン溢れる作品を生み出した作家フィツジェラルドの44年の生涯は、ギャツビーのそれに劣らずドラマティックである。当時の若者を瑞々しく描いて、シャズ・エイジの代弁者として華々しく文壇に登場し、一躍、人気流行作家となる。しかし、大恐慌を機に大きく変貌するアメリカの歴史の転換期に、このロマンティックな作家は対応できない。その後は世間から忘れられ、心ならずもハリウッドのお抱え作家として再起を期すがうまくいかず、酒浸りの生活を送らざるを得なかったのである。