もし、あなたが卒後5年目の若手ドクターだったら・・・【MRのための読書論(97)】
若手ドクターの必読書
『臨床研究の道標(みちしるべ)――7つのステップで学ぶ研究デザイン』((福原俊一著、健康医療評価研究機構)は、若手ドクター必読の一冊である。
本書は、ドクターのみならず、MRにとっても3つの点で有益である。第1に、ドクターの本当の気持ち、考え方を知ることができる。第2に、臨床研究の基本を学ぶことができる。第3に、MRとして、ドクターにどんなサポートができるかのヒントを得ることができる――からだ。この本の存在をドクターに伝えたら、きっと感謝されることだろう。ドクターが先輩に臨床研究の基本を聞くことはそう簡単ではないし、聞いても、これほど系統だった回答は得られないだろうから。
7つのステップ
若手ドクターが臨床研究を成功させるために必要な7つのステップ――第1:疑問を構造化する、第2:先人に学ぶ、第3:疑問をモデル化する、第4:測定をデザインする、第5:研究の「型」を選ぶ、第6:比較の質を高める、第7:倫理的配慮――が示されている。
卒後5年目の外科系後期研修医・Oliveが、臨Qと名乗るメンター役の謎の老人に一歩ずつ導かれていく形をとっているので、理解し易い。
例えば、第4ステップで登場する「変数」については、こんな問答が交わされる。「Q:ところでOlive君、変数ってなんじゃ? O:変数というのは・・・。変わる数ですか? Q:変数というのは、数が変わるということではなく、『2つ以上の値をとりうるもの』を意味する。例えば、性という変数(男と女)、年齢、体重、病気の種類、すべて2つ以上の値をとっているという意味で変数と言えるじゃろう? O:なるほど~」。
また、「なぜ『結果』と言わずに『アウトカム』と言うか」は、「元々、アウトカムという言葉は日本語で『結果』『転帰』などと訳され、臨床におけるアウトカムとは患者自身の有する何らかの要因や治療行為などの医療的介入がもたらした結果を意味します。臨床疫学においてもっとも重要視される臨床的アウトカムは、『死亡するかどうか』、『症状がよくなるかどうか』、さらには『仕事や日常生活に障害をきたすかどうか』、『どれだけ経済的負担がかかるか』など、患者やその家族にとって切実な問題に関する事柄であり・・・。『結果』と言わずに『アウトカム』という言葉をあえて用いるのには、それがこれまで主に用いられてきた、いわゆる『病態生理学的な結果』だけではないということを強調する意図が込められているとも言えましょう」と解説されている。
第5ステップでは、研究デザインの型について、「研究デザインの『型』は、まず観察研究か介入研究かで大きく分類されます。ある疾患やこれに対する診療実態をありのままに観察し、記述する場合は観察研究になります。一方、要因を介入として位置づけ、研究者であるあなたが意図的に操作する場合は、介入(実験)研究ということになります。介入研究は、その介入を無作為(ランダム)に割り付けるのかどうかによって、さらにランダム化比較試験と非ランダム化比較試験に分類されます」と説明されている。
第6ステップに登場する「P値」については、「P値という単一の値を用いた統計学的検定方法のもっとも大きな問題は、『P値が小さいことが、効果が大きいせいなのか、精度が高いせいなのか識別できない』という点にあります。なぜならP値は両者が混合して得られる値だからです」と、注意を促している。
利益相反
著者は、第7ステップで、「『利益相反がある場合、研究してはいけない』ということではなくて、その研究に関して研究者と利益相反を生じうる団体・個人およびその相反内容を公開すること、そして研究結果の解析・解釈においてそれらの団体・個人から影響を受けないと倫理審査委員会への申請書に宣言・記載し、論文では結果的にも影響を受けなかったと明言することが重要なのです。すなわち、『利益相反』自体が悪なのではなくて『利益相反』があることを明確に認識していないこと、そして利益相反の可能性を認識していてその情報を開示しないこと、が問題なのです」と、明快に言い切っている。
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