榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

第5回 情熱的読書人間・「MRのための読書論」著者 榎戸誠氏・・・【ミクスOnline TV 2015年6月18日号】

【ミクスOnline TV 2015年6月18日号】 ミクスOnlime TV ゲスト出演

●キャスター・望月

第5回のミクスOnlineTVは、情熱的読書人間として、また「MRのための読書論」の著者である榎戸誠さんをゲストにお迎えし、トークを進めて参ります。榎戸さんと言えば、伝説のMRとして有名な方です。MR時代には、処方してくださった医師への感謝の気持ちを込めて踊りを踊ったという有名な伝説も残されております。きょうは、この伝説の踊りもOnlineTVの中で披露してくださいました!

Chapter1 MR不要論について

●キャスター・望月

では、最初のテーマです。最近はMR不要論なるものが話題になっています。榎戸さんはこれをどうご覧になっていますか?

●榎戸氏

私は、MR不要論には与しません。その理由は、最近、MRを巡る環境変化の激しさが指摘されていますが、100年を超えるMRの歴史では、大きな変化が何度も起こっているからです。そのたびに、製薬企業とMRが変化に必死に対応することで生き延びてきたのです。チャールズ・ダーウィンが「弱い者が滅びるのではなく、変化に対応できなかった者が滅び去る」と言っているように、企業とMRが一緒になって変化に対応すれば必ず活路が開けると考えております。

MRの役割が従来とは違うものになったり、働き方のスタイルが変わったりすることは十分あり得ますが、真剣な議論を通じて、患者やドクター、薬剤師を初めとする医療関係者から必要とされるMR活動というものがはっきり姿を現してくると確信いたしております。

Chapter2 MR読書論について

●キャスター・望月

榎戸さんと言えば読書人間ですよね。毎日沢山の本を読まれているとうかがっています。榎戸さんがMRに読書を進める理由とはどのようなものでしょうか?

●榎戸氏

MRには、製品知識・周辺知識のほかにコミュニケーション力や段取り力などが必要とされていますが、重要なドクターや薬剤師を初めとする医療関係者と良好な関係を継続して保つには、人間力、すなわちリベラルアーツ、一般教養といった人間力を備えているか否かがポイントになると、私は考えております。

社会人であるMRがこの人間力を磨くには、何と言っても、読書が一番であります。
そこで、私は「榎戸誠の情熱的読書のすすめ」というブログを公開して、読書を勧めているのです。このブログはグーグルで検索していただくと、すぐに見つかります。

例えば、「第1章:宇宙・進化・生物の不思議」、「第7章:仕事にロマンを」、「第8章:人生とは何だろう」――といった12の章にグループ分けして、私が書評した本たちを掲載しております。書名、著者名、キーワード等で検索できるようになっていますので、ぜひ、一度ご覧いただけたらと思います。

●キャスター・望月

本の選び方についてのアドバイスをお願いします。

●榎戸氏

自分の好きなテーマについては、常時、アンテナの感度を高め、興味を掻き立てられた本たちを、私の手帳の「読みたい本リスト」に加えています。その他、読んだ本の中で推奨されている本や参考文献として挙げられている本、新聞などの書評や広告で取り上げられている本、書店や図書館の新着コーナーに並べられている本の中で興味を惹かれた本たち、知人から送られたり、薦められたりした本がリストに加わっていきます。

リストされた本のそれぞれについて、先ず著者・訳者のプロファイルに目を通します。次に帯の惹句(キャッチフレーズ)を読み、後書き、前書きへと進んでいきます。それから目次を眺め、特に興味を感じたページにさっと目を通します。
この段階で私と相性が合った本は読むべき本となり、相性が合わない本とはお別れすることになります。

●キャスター・望月

本を読むときに意識するポイントはありますか?

●榎戸氏

読みながら、これは見たことのない新しい情報・知識だな、この箇所は勉強になるな、この部分は書評を書くとき引用しよう、この表現は真似できるな、この理解し難い項目は後で調べなくては、著者のこの主張は正しいか疑問だな――といった箇所に、常時、携帯している付箋をどんどん貼っていきます。

100枚、200枚といった付箋で本が、針鼠のようになってしまうこともしょっちゅうです。付箋を使用することで、スピードを落とさずに読書することが可能になります。ぜひ、お試しください。

●キャスター・望月

最後にMRに絶対に読んでもらいたい一冊をご紹介下さい。

●榎戸氏

それは、『夜と霧』です。どんなに優秀なMRであろうと、常に順風万帆で活躍できるほど世の中は甘くありません。逆境に置かれると、かなりタフな者でも心理的に落ち込み、追い詰められてしまいます。そういうときは、究極の逆境を乗り越えたヴィクトール・フランクルの『夜と霧』に学びましょう。

著者のフランクルは少壮の精神科医として、美しい妻と二人の子供に恵まれ、ウィーンで平和に暮していたのですが、突然、ユダヤ人という、ただそれだけの理由で、ナチスによって一家もろともアウシュヴィッツ強制収容所に送られてしまいます。そして、ここで彼の両親、妻、子供たちは、あるいはガス室で殺され、あるいは餓死してしまうのです。

それでは、なぜ、彼だけがこの書に描かれている凄惨な状況の中を生き延び、奇跡的に生還することができたのでしょうか。

彼は、精神的、肉体的にぎりぎりの状況下にあっても、極寒の屋外での辛い行進や労働の最中に、心に思い描いた最愛の妻と会話を交わし続けることで、彼女から慰められ、励まされ、勇気づけられたのであります。妻がこの時には既に殺されていたことを彼が知るのは、生還後のことであります。

同じみすず書房から新訳も出版されていますが、私は霜山徳爾訳のほうをお薦めいたします。

●キャスター・望月

本日は貴重なお話をありがとうございました。