榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

MR活動は、個人の実力勝負から、企業の総力戦の時代へ・・・【MRのための読書論(135)】

【ミクスOnline 2017年3月15日号】 MRのための読書論(135)

ITの進化

三共(現・第一三共)の医薬営業本部部長兼ウェブ情報部長として、一騎当千の部下たち、優秀な制作会社・電通とともに、当時、各部門――研究、開発、生産、営業、市販後臨床、管理――がそれぞれの方針で作成していた企業ホームページを全社統一的なものに全面リニューアルするという大転換を断行し、併せて、患者・生活者向けの疾患解説ページ「目で見る病気の基礎知識」を開設したのは、2003年3月のことであった。

こういう経験があるので、『最強の営業部隊をつくるタブレットPC活用戦略』(関根潔著、幻冬舎メディアコンサルティング・経営者新書)を読んで、著者の姿勢に共感を覚えると同時に、近年のITの目を瞠る進化には驚きを禁じ得ない。

総力戦の時代

著者の主張は、一言で言えば、MR活動は、個人の実力勝負から、企業の総力戦の時代へ移行しているということであり、この状況にどう対応すればいいのかが具体的に示されている。本書を読み込むことによって、対応策の優先順位を的確に理解し、全社の課題としてスピード感を持ってシステムを構築できるか否かが、各製薬企業の命運に影響を及ぼすことになるだろう。従って、本書はMRではなく、製薬企業の経営トップ、各部門トップの必読書ということができる。

3つの理由

本書が類書を圧倒しているのには、3つの理由がある。第1は、日本ロシュ(現・中外製薬)、ノバルティス ファーマ、起業したインタラクティブソリューションズのそれぞれにおいて著者が構築してきた先進的なIT戦略が、我が国の製薬業界のITの歴史そのものを如実に物語っていること。第2は、著者が、2割を占める優秀MRはITの助けがなくとも企業が期待する実績を上げられることを率直に認めており、残りの8割のMRに対するITサポート強化による全体の営業力の底上げを目的としていること。第3は、どういう基本理念のもと、どのようなシステムを構築し、それをツールにどのように落とし込んだらいいのかが、著者の実体験を踏まえて、明快かつ具体的に説明されていること。

タブレットの出現

「社内に蓄積されたあらゆる情報を営業の現場でフル活用することができないか」、「売り込もうとする相手の心をつかむには、会社の資産であるコンテンツをタイムリーに、しかも最適なものを選んで営業の現場で取り出せるかどうかがカギ」という著者の問題意識を解決できるようになった背景には、タブレット端末の出現がある。「すべての営業担当者が全社のコンテンツを共有し、社外で相手と接触している場で即座に活用できれば、誰もがクライアントの気持ちをつかむ営業ができるようになります。その結果、営業部門全体の水準がカサ上げされます」。タブレットを活用し、会社に蓄積されたナレッジを生かすことによって、営業組織を支えようというのだ。

同時に、いかに営業担当者を管理するかに腐心するよりも、実際に売り上げを稼いでくる営業担当者が現場で生き生きと活躍できるように頭と資源を使えと、経営トップに発想の転換を迫っているのだ。

効果の波及

著者が提唱するシステム、ツールを採用すると、どういう効果が得られるのか。「人と人が対面する場面では、自分が発したひとことで相手の反応が違ってきますし、その返事でまた話の流れが変わります。そんなインタラクティブ(双方向的)な営業場面に合わせて、最適なコンテンツを取り出せると、それまでできなかったような対話が可能になります。営業現場で社内にある幅広いコンテンツが全部入っているツールがあり、必要とする人が誰でも有効活用できるという仕組みがあれば、コンテンツを最大限に利用できるプラットフォームとなります。もちろんコンテンツを入力したり整理するのはその情報の主たる担当者が行うので、営業担当者の負担にはなりません。・・・さらに、営業現場でどのコンテンツをどのような流れで利用したかが自動的に記録されれば、営業活動の報告そのものを簡略化することができます。その利用データをほかの営業担当が事例として参照すると、社内でナレッジが共有されます。その情報を全社で集めてデータベース化すると、今度はそれ自体が新しいコンテンツとなります」。

本書では、「タッチパネル端末+対話型コンテンツ+ログ管理の仕組み」の威力がまざまざと示されている。製薬業界で注目されている課題解決型の営業の実現に大きく貢献するだろう。