榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

評判の高い『7つの習慣』は、そんなに凄いビジネス書なのか・・・【MRのための読書論(80)】

【Monthlyミクス 2012年8月号】 MRのための読書論(80)

最高のビジネス書か

「現代の最も優れたビジネス書は?」との質問に、『7つの習慣――成功には原則があった』(スティーヴン・R・コヴィー著、ジェームス・スキナー、川西茂訳、キングベアー出版)を挙げる識者があまりにも多いので、本当にそうなのか確認すべく、今回、改めて精読してみた。

その結果、確かに、根本(根源)的な成功原則が示されており、企業を初めとする組織における成功のみならず、個人の成功、配偶者や子供との関係における成功を目指す人にとっても、いわゆるハウトゥー本とは明確に一線を画す、非常に有効な書――との確信を得ることができた。

インサイド・アウトが基本

著者の基本的な考え方は、「インサイド・アウト(内から外へ)」という言葉に集約されている。これは、他人や環境の変化を待つのではなく、自分自身の内面(インサイド)を変えることから始めるということである。自分のあり方(自分の内にあるもの)を変えることにより、自分の外にあるものをプラス方向に転換させることができるというのだ。
 

習慣は段階を踏んで

著者は、「第1の習慣(習慣は、知識、スキル、やる気の3要素から成っている)=主体性を発揮する(自己責任の原則)」→「第2の習慣=目的を持って始める(自己リーダーシップの原則)」→「第3の習慣=重要事項を優先する(自己管理の原則)」→「第4の習慣=Win-Winを考える(人間関係におけるリーダーシップの原則)」→「第5の習慣=理解してから理解される(感情移入のコミュニケーションの原則)」→「第6の習慣=相乗効果を発揮する(創造的な協力の原則)」と、順を追って身に付ける必要性を強調している。

そして、この第1~第3の習慣を「私的成功(個人が自己を高め、真の意味の「自立」を勝ち取る段階)」、第4~第6の習慣を「公的成功(他人と協力し、影響の輪を広げる段階)」と位置づけている。

各習慣を身に付けるポイント

●第1の習慣――主体性を発揮するには、率先力が必要である。そして、主体的な人間は、すぐに間違いを認めて自己修正を図り、そこから得られる教訓を学ぶ。このことによって、失敗は成功のもととなるのである。

●第2の習慣――目的を持って始めるために、人生の最後の姿を描き、それを念頭に置いて今日という一日を始めることを勧めている。そうすれば、自分にとって何が本当に大切なのかをベースに、今日の行動、明日の行動、来週の行動、来月の行動を計画することができるというのだ。

●第3の習慣――リーダーシップは、重要事項とは何なのかを決めることであり、マネジメントは、重要事項を優先して、毎日、時を置かずに実行することである。そして、「時間管理のマトリックス」――「第1領域=緊急かつ重要」「第2領域=緊急でないが重要」「第3の領域=緊急だが重要ではない」「第4領域=緊急でも重要でもない」――の第2領域に集中することによって、我々の効果性は劇的に向上する。もう一つ重要なことは、「デレゲーション」である。これは、他人に仕事を任せることを意味している。デレゲーションによって、自分のエネルギーや時間を波及効果のより大きい他の活動に注ぐことができるようになるからである。これは人や組織の成長を促す最も強力な方法の一つなのだ。

●第4~第6の習慣、すなわち「公的成功」を目指す際の重要な考え方は、「信頼残高」である。銀行口座にお金を預け入れることで貯えができ、必要に応じてそこから引き出すことができるように、信頼残高とは、ある関係において築かれた信頼のレヴェルを表す比喩表現である。

●第4の習慣――Win-Win(自分と相手の双方にとって有益な第三案による解決策を創出する)は、人生を競争ではなく、協力する舞台と見る考え方である。これを実行するには、人間の4つの独特の性質(自覚、想像力、良心、自由意志)を全て発揮する必要がある。他人と相互に学習をし、相互に利益を得る姿勢が重要なのだ。

●第5の習慣――先ず相手を理解するように努め、その後で、自分を理解してもらうようにする姿勢が、人間関係における効果的なコミュニケーションの鍵である。この原則は、MRを初めとする営業活動にも当てはまる。優秀な営業担当者は、先ず顧客のニーズや関心、あるいは状況を理解しようとする。つまり、素人が商品を売ろうとするのとは異なり、プロフェッショナルはニーズや課題に対する解決を売るのだ。プロフェッショナルは診断し、理解する方法を学ぶ。他人のニーズと自分の持つ商品を結びつける方法を学ぶ。そして、時と場合によっては、「私の商品やサービスは、あなたのニーズを満たさない」と言う誠実さを示さなければならない。

●第6の習慣――人間は、一度でも本当のシナジー(相乗効果)を経験してしまうと、二度と前の状態に戻ることはできない。自分の考えを拡大させる、シナジーという名の冒険の味を知ってしまったからだ。シナジーの本質は、相違点、つまり知的、情緒的、心理的な相違点を尊ぶことである。

より高いレヴェルへ

最終到達点である「第7の習慣=刃を研ぐ(ヴァランスのとれた自己再新再生の原則)」の意味するところは、第1~第6の習慣の刃を研ぐ時間をとる習慣を身に付けよということである。効果的に人生を営むためには、定期的に刃を研ぐ時間をきっちり確保せよ、自分自身にしっかり投資しろというのだ。そうすることによって、第1~第6の習慣の全てを再新再生させ、さらに高いレヴェルに引き上げることが可能になるのだ。