ヴェテランMRへの「勇気と想像力」の処方箋・・・【MRのための読書論(22)】
ヴェテランMRをワクワクさせる小説
「人生で必要なものは、勇気と想像力と、ほんの少しのお金」という、映画「ライムライト」のチャールズ・チャプリンの台詞が好きだ。
若手MRはいろいろな悩みに直面するが、ヴェテランMRだってさまざまな問題を抱えている。『D(DREAM)列車でいこう』(阿川大樹著、徳間書店)は、そういう悩み多きヴェテランMRに勇気と想像力を与えてくれるビジネス小説である。私も、これから先、落ち込んだ時にはこの本を読み返したくなるだろう。
たった3人で難問に挑戦
この小説の主人公は、2年後の廃線が運命づけられているローカル鉄道を自分たちの手で再建しようというドン・キホーテ的な3人である。MBAの資格を持つ才色兼備の銀行員、32歳、独身。町工場相手に良心的融資を実践する銀行支店長、55歳、バツイチ。鉄道マニアのリタイア官僚、58歳、妻と死別。誰に頼まれたわけでもないのに、このローカル鉄道に惚れ込んだ彼らが、3人きりの株式会社ドリームトレインを起業して、ローカル鉄道立て直しに果敢に挑む。しかし、なぜか、第三セクターのローカル鉄道の社長を兼ねる町長は、彼らの協力を受け容れようとしない。
奇想天外、破天荒なアイディアで勝負
キャッチ・バーではないのだから、乗客を無理やり引っ張ってくるわけにはいかない。いろいろな手を打って客に来てもらったとしても、繰り返し来てもらえなければ集客コストがペイしない。1回きりの反応ではなく、時間と費用の効果が蓄積され、投資が長続きするビジネス・モデルを作り上げなければならない。このローカル鉄道が赤字なのは、結局、人々にこの鉄道に乗る理由がないからだ。乗る目的がないなら目的を作ればいい。目的のある人がいないなら人を連れてくればいい。基本はシンプルだ。だが、それを実現する方法は簡単ではない。
小さな乗車目的であろうと、目的ごとに細かく客を拾い集めていくことで赤字解消が可能という信念の下に、3人はさまざまな奇想天外、破天荒なアイディア、プランを実行に移していく。地元野菜を車内販売する、車内で生演奏する、車窓から見える大きな壁に絵画を描く、駅の構内に小学生の絵を展示する、この鉄道の列車運転シミュレーション・ゲームを開発してもらう、この鉄道と町の開発シミュレーション・ゲームを開発してもらう、鉄道マニアを対象にリアル運転士講座・学科編を開催し、さらに、全くの素人をこの鉄道の運転士に養成する本格的な研修を実施する、町有地にミニ・ログハウスを建てログタウンを造る、有名楽器企業とタイアップして地元でバンド・コンテストのイベントを開催する――彼らは田舎町に次々と旋風を巻き起こしていく。
3人は、上記のアイディア実現のため、アイディアごとに協力者をきめ細かく獲得していく。さらに、地元の新聞社とテレビ局の協力を得ること、掲示板、ブログ、個人サイト等の鉄道マニアのネットワークを上手に活用することで、夢のゴールに一歩ずつ近づいていく。
夢を共有する喜び
土地の人々が鉄道を失わなくてすむようにローカル鉄道を救おうと、3人でアイディアを出し合い、ビジネス・プランを練り、アクションを起こす。その結果、いろいろな細かい作戦が一つずつ実を結んでくる。夢の実現に向けて確実に前進していると実感できた時の、「これほどワクワクする仕事ができるなどと想像できなかった。仕事ってなんて楽しいのだろう」という彼らの高揚感が、私たち読者にもリアルに伝わってくる。
今まで誰もやろうとしたことがないような大胆なプランを相手に理解させ、協力を得るには、赤々と燃える情熱と、周到に練られたプレゼンテーションが必要になる。真剣に限界に挑戦している人間は、相手の心を揺さぶることができるのだ。
彼らなら、また、きっと何か思い切ったサプライズを与えてくれる、そう人々から注目され、期待されることが、いい励みになる。自分たちの仕事のやり方、進め方に共感してくれる人々の存在が、心を癒してくれる。そして、この本は、私たちに夢を共有する喜びを教えてくれる。
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