榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ネガティブな状態から抜け出して、幸せになる方法とは・・・【MRのための読書論(183)】

【ミクスOnline 2021年3月25日号】 MFRのための読書論(183)

性格が幸せを左右する

『幸福の意外な正体――なぜ私たちは「幸せ」を求めるのか』(ダニエル・ネトル著、金森重樹監訳、山岡万里子訳、きずな出版)には、現代の幸福を考える具体的なヒントが詰まっている。

著者の幸福学は、「幸福感が頭打ちにもかかわらず、なんとか生活満足度を1単位でも増加させるべく膨大な時間を使って高い所得を得ようと奮闘するよりも、むしろ限りある命を浪費しないことのほうが大切なのではないか」というところからスタートしている。

著者は、幸福に関する研究を重ね、「性格が幸せを左右する」という結論に達している。これは、換言すると、「幸せとは、周囲の世界いかんによるのではなく、人が世界にどのように関わるかによる」ということになる。「これは、あなたが直接的に取り組むことができる、数少ない事柄の一つです。必要な力はすでにあなたの中にあるのですから、自分を変えることのほうが、周囲の環境を変えることよりよっぽど簡単なはずです(しかも勝実に安上がりです)」。

ネガティブ思考とうまくつき合う

「神経症的傾向の強い人は、どんなときもネガティブな考えや気持ちに屈しがちです。それについてはなかなか変えられないかもしれません。けれども、そんな人でも自分を訓練してネガティブ思考とうまくつき合うことで、世界における自分の存在を変えることが可能なのです」。

具体的な方法として、①ネガティブ感情の影響を減らす、②ポジティブ感情を増やす、③目先を変える――の3つが挙げられている。

ネガティブ感情の影響を減らす

「恐れ、心配、悲しみ、怒り、罪悪感、羞恥心といったネガティブ感情は、度を越すと、不幸をつくり出す原因になります。・・・緊急事態に対応するために設計されたネガティブ感情プログラムのせいで、私たちは不必要に恐怖や不安にさいなまれるのです。しかも、心配するせいでかえって恐れた通りの結果を招いてしまう――たえず不安におびえているため、態度が非友好的になり、神経質で魅力のない人間になっていき、何かいいものがめぐってきても受け入れられなくなってしまうのです。そのような観点から、ネガティブな考え方や気持ちを解消しようという試みが、『認知行動療法』です。療法士(セラピスト)と来訪者が協力して、ネガティブ思考のパターンを突きとめ。その不合理性を明らかにするのです。たとえばうつ病の人は多くの場合、現実的な根拠もないのに、反射的にネガティブな考え方をするのが習慣になっています。それらを洗い出し理不尽さを話し合うことで、来訪者はネガティブな考えが自分の気分にもたらしている影響に、対処できるのです。・・・面白いことに、この変化は抗うつ薬のもたらす変化とはまた別なのです」。

ポジティブ感情を増やす

「ポジティブな感情の向上は、『快行動トレーニング』によって達成されます。どんな行動をとることが自分にとって快いかを見きわめ、それを頻繁に行うことから成り立っています。直感にしたがって自分が何が好きかを判断し、それをリストアップした上で、頻繁にその行動をとるよう決意する。あるいはもっと科学的な方法をとるなら、数週間続けて日々の行動をことこまかに記録し、別の表にはその時々の気分を記録する。得られたデータから統計をとり、どの行動が比較的いい気分に結びついたかを分析するのです。そのような調査で浮かび上がってくる『快行動』は、友人との交流、スポーツ、文化活動、外出、目新しい場所への旅行、などです。この快行動トレーニングはうつ病からの脱却方法の一つですが、健常者が数週間試したところ、やはり幸福度の自己評価が高まったといいます」。

目先を変える

「『目先を変える』ための重要な方法が、欲望や欠乏感をきっぱり捨て去ることなのです。欲望は、単に達成できないか、あるいはたとえある程度達成できても、いつまでたっても飽き足らないからです」。

「あなた自身が何か、価値がある、挑戦しがいがある、大切である、と思えるものに意識を集中させてみればいいのです。いくつもの美徳に向けて努力をすれば、それだけリスクを分散させることができ、生活も変化に富んだものになります」。

ネガティブ思考の人は、勇気を奮って、早速、試してみよう。