人体は本当によくできていて、美しく、神秘的だ・・・【MRのための読書論(195)】
人体はすばらしい
『すばらしい人体――あなたの体をめぐる知的冒険』(山本健人著、ダイヤモンド社)は、自分の体がいかにすばらしい機能を持っているかということを、私たちに気づかせてくれる。
ピロリ菌とノーベル賞
「胃にピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリという細菌)が感染すると、胃の粘膜に慢性的な炎症を引き起こす。長い年月を経て萎縮性胃炎と呼ばれる胃粘膜の萎縮に発展し、胃がんが発生しやすい状態になると考えられている」。ピロリ菌を見つけてノーベル生理学医学賞を受賞するのがロビン・ウォレンとバリー・マーシャルだが、「胃にピロリ菌がいるというだけでは、病気の原因になるとは言い切れない。ピロリ菌が本当に胃の病気を引き起こすのか。それを証明するためにマーシャルが行ったのは、自らの体を使った人体実験だった」。ところで、なぜピロリ菌は強酸性の環境でも生きられるのだろうか? 「ピロリ菌は、アルカリ性であるアンモニアを産生するため、自らの周囲の強酸を中和できるのだ」。
がんが転移する臓器は偏る
消化器にできたがんの遠隔転移先は、肝臓が圧倒的に多いのはなぜか。「消化器を流れる血液が、その次に向かう主な行き先が肝臓だからだ。がんが他の臓器に転移を起こすのは、がん細胞が近くの血管に入って転移先に流れ着くからである」。
陰茎はどのように伸び縮みするか
「精子を効率的に子宮内に届けるため、陰茎は挿入時に大きく固くならなければならない。一方で、平時に大きいと歩行時に邪魔になるほか、外傷のリスクもあるため、小さいほうが都合がよい」。「副交感神経はリラックスしたときに働く神経である。一方、交感神経は緊張感が高まったときに働く。つまり、緊張や恐怖を感じたときに勃起は起こらないのだ」。ここで、ミケランジェロが登場する。「代表作『ダビデ像』は、全身の大きさの割に陰茎が小さいことが知られている。2005年、フィレンツェの医師らはこの理由に関する研究結果を論文発表した。戦いを前に緊張と恐怖を感じる様子を表現したものだという。・・・(ミケランジェロは)自ら人体解剖をし、正確な解剖学的知識を得ていた。ダビデ像のリアルな造形も、そうした理解に裏づけされたものだと考えると納得がいく」。
人は何が原因で命を落とすのか
「生活習慣病という概念にはがんも含むのが一般的だ。特に喫煙は、さまざまながんを引き起こす生活習慣である。がんになった人のうち男性で30パーセント、女性で5パーセントは喫煙が原因とされ、喫煙者は非喫煙者より寿命が8~10年短く、1本タバコを吸うたび寿命が11分短くなる、といわれている」。20年前に禁煙して、よかった!
免疫は「自己」と「非自己」を見分ける
「最近世界的に使用されている、新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの中には、『mRNAワクチン』という新しいタイプのものがある。mRNAは、ウイルスの持つ抗原の『設計図』だ。設計図を注入し、ここから抗原を体内でつくった上で、この抗原に対する抗体をつくり出す、というしくみである。免疫のしくみを利用し、敵に一撃をも許さない、強力な武器がワクチンなのだ」。
がんと免疫の深いかかわり
がん細胞もまた、免疫によって排除されるべき異物なのに、がんはどのようにして免疫からの攻撃を免れるのだろうか。「近年、そのしくみの一つが明らかになった。がんは細胞表面のPD-L1という分子を、免疫細胞(T細胞)の表面にあるPD-1と結合させ、その攻撃にブレーキをかけているのだ。この作用によってT細胞ががん細胞への攻撃をやめてしまう。2014年、このブレーキを解除する薬、PD-1阻害薬『ニボルマブ(商品名:オプジーボ)』が登場した。PD-1に結合し、その作用を阻害することによって免疫が本来の攻撃力を取り戻すのだ。また、CTLA-4という分子も同じ働きをすることから、CTLA-4阻害薬(イピリムマブ、商品名:ヤーボイ)も臨床応用された。これらは免疫チェックポイント阻害薬と総称されている」。
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