アルツハイマー病研究が失敗続きなのは、なぜか・・・【MRのための読書論(217)】
アルツハイマー病
誰でもアルツハイマー病を発症する可能性があることを考えると、『アルツハイマー病研究、失敗の構造』(カール・ヘラップ著、梶山あゆみ訳、みすず書房)は多くの人に読まれるべき一冊である。医療関係者、医薬品業界関係者にとっては必読の書と言えるだろう。
「私たちはアミロイドのみのルートを通ってアルツハイマー病の治療薬を追い求めてきたために、多くの時間を失った。たぶん10~15年は無駄にしてきただろう」。
本書で注目すべきは、下記の3つである。
アミロイドカスケード仮説
第1は、アルツハイマー病の治療薬の研究・開発が「アミロイドカスケード仮説」一本槍の現状に対する異議申し立てである。
「アミロイドカスケード仮説」とは、アルツハイマー病はアミロイドプラークと神経原線維変化(もつれ)が病因と考える仮説である。
「アミロイドβがアルツハイマー病の唯一無二の原因だという考え方が、無理もないことだが強力に推進されることとなった。その考え方を初めて統合して詳述したのがアミロイドカスケード仮説であり、今日に至るまでそれがアルツハイマー病研究における主流の疾患モデルとなっている。不幸なのは、その支配的な立場がほかの仮説を抑圧するのに利用されたことである。価値ある仮設はいつくもあり、そのいずれもがアミロイドカスケード仮説の核となる考えと程度の差はあれ親和性をもっていた。にもかかわらず抑え込まれたことで、私たちの研究の守備範囲から多様性が根こそぎ奪われた。アミロイド以外の研究論文の発表も妨げられ、ほかの仮説を探究しようとするグループへの研究資金も減らされた」。
著者がアミロイドカスケード仮説は落第と判定した検証結果が示されている。
①ヒトでもマウスでも、健康な脳にアミロイドを加えたからといってアミロイドカスケードが始動することはない。
②ヒトの場合、アルツハイマー病患者の脳からアミロイドを除去しても病気の進行は止まらない。
③前駆体であるAPPからアミロイドを切り出せないようにしても、病気を食い止められないばかりか、ヒトでもマウスでも健康状態を損なう。
老化
第2は、アルツハイマー病は老化との関係を重視すべきという提言である。
「私のモデルの土台には、老化なくしてアルツハイマー病なしという不動の真実がある。老化を根幹に位置づけるのが私の狙いである」。
「認知症研究を前進させるうえで、老化を研究すること以上に見返りの大きい投資はない」。
「DNAの損傷が未修復のまま蓄積することが老化プロセスを進行させるおもな要因だ」。
仕切り直し
第3は、国、大学、製薬企業に対する、アルツハイマー病への取り組み方を一度リセットして仕切り直ししようという呼びかけである。
「(私たちが目指すべきは)アルツハイマー病研究が迷い込んだ袋小路から抜け出す道を描き出すことである。進路変更の道筋をはっきりと示すには、アルツハイマー病の定義を考え直すとともに、その複雑な生物学的仕組みを説明できる新しい仮説を提案しなくてはならない」。
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