ファーブルのユーモア溢れる語り口。そして、幼年時代、教師時代の思い出・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1765)】
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閑話休題、『完訳 ファーブル昆虫記(10)』(ジャン・アンリ・ファーブル著、山田吉彦・林達夫訳、岩波文庫)で印象深いのは、「きんいろおさむし――婚姻の習わし」、「幼年時代の思い出」、「忘れられぬ授業」の3章です。
「6月の中旬、私の面前で1匹の(きんいろおさむしの)雌が雄を料理していた。雄は体が幾分小さいのでわかる。仕事は始めたばかりだった。おそいかかった雌は胴の端、背面を啣えて、そのいけにえを捕えていた。つかまった方、元気のはち切れそうな雄は手向いもせず、振り向くこともしない。彼はその恐ろしい牙を逃れようとあせって、あべこべの方へ懸命に行こうとする。彼は引きずったり、引きずられたりする度に、進んだり退いたりする。彼の手向いはそれだけだ。争いは15分くらい続く。通りがかりの雄どもが顔を出し、立ち止り、そしてこんな事を言っているようだ。『俺の番も間もなく来るぞ』。最後にうんと力をこめて、雄は体を引き離し、遁走してしまう。もし雄が体を引き離さなかったら、彼は凶暴な雌のために、胴をがらんどうにされると思わなくてはならない。それから幾日か後、私は同じような光景に立ち会った。今度はすっかり幕切れの締めくくりがついている。今度もまた雌が雄の胴の端を咬んでいるのだ。逃げようといたずらにあせるだけで少しも反抗せずに、咬まれたなりになっている。遂に皮膚が破れる。傷口は大きくなる。頭を相手の胴の中に突っ込んで、甲羅の中を空にしている女丈夫のために、内臓は引きちぎられ、呑み込まれてしまう。肢のふるえが、哀れな雄の最後を告げている。畜殺人はそんな事などにはびくともしない。彼女は狭くなった胸の出来るだけ奥の方まで探り続ける。小舟のように合わさった2枚の鞘翅、それからちっとも怪我していない前半身だけが、死者に残されている部分だ。かさかさの骸はその場に棄てられる」。
「交尾が終って、野原で雄に会った雌は、その時これを獲物として扱い、結婚の儀式を閉ざすために、雄を食べてしまうに違いない。・・・太った雌は卵巣を実らすために、雄が入用でなくなると、番う相手を食ってしまうのだ。おさむしの世界は何という世界だろう」。ファーブルの語り口は、気取りがなく、ユーモアが溢れています。
のびたきの巣から卵を家に持ち帰ろうとした幼いファーブルは、助祭に見つかってしまいます。「『小さいジャンや』と坊さんは答えた。『そんなことをしてはいけないね。母鳥から雛を盗んではいけないよ。罪もないあの家族を大事にするんだ。神様の小鳥たちを大きくして、飛べるようにしてやりなさい。小鳥は野の喜びだからね。地面の害虫を退治してくれるのだよ。利口な子になりたかったら、二度と巣なんかに手をつけてはいけないね』。・・・私の心の底で、母親を悲しませることは悪いことだと感じた」。ファーブルにも、こんな子供時代があったのですね。
「私は公立学校の初等科担任として、カルパントラスにやられた。・・・私は自分の思う通りに教えることが出来た。ところで学校を高等小学校というその名称にふさわしくするには、どうしたらよいか。えい、そうだ! 何はともあれ、化学を教えよう」。
「(化学の実験中)度し難いほどの高熱のこの金属の滴は、我々を戦慄させた。みんなは足を踏みならし、声を立て、拍手する。臆病なものは顔を手で覆って、並んだ指の隙間からしか見ようとしない。私の生徒達は歓喜し、私自身も得意満面である。どうだい、みんな、好いものだろう、化学って。・・・私の記録すべき日の一つは、酸素と最初の関係をつけた日だ。この日クラスを終えて、すべての器材を元に戻したとき、私は24、5センチも背丈が伸びたような気がした。習いもせずにやった私は、2時間ばかり前まで知らなかったことを、完全な成功を持っていま示したのだ」。教師・ファーブルの生徒に教える喜びが伝わってきます。