榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

突然、「出版社をつくろう」と立ち上がった青年の中間報告書・・・【山椒読書論(7)】

【amazon 『計画と無計画のあいだ』 カスタマーレビュー 2012年2月8日】 山椒読書論(7)

計画と無計画のあいだ――「自由が丘のほがらかな出版社」の話』(三島邦弘著、河出書房新社)という本に出会えて、本当によかった、つくづくそう思える痛快エッセイである。

ある日、突然、「出版社をつくろう」と思い立った一人の青年の、起業から5年間の現在進行形の記録である。なぜ、彼は起業に踏み切ったのか。現在の出版社は原点を忘れている、出版界の常識はおかしい、という思いに衝き動かされ、「一冊一冊に愛情を注ぎ、自分たちの手で本を『つくる→送る→届ける』小さな出版社をつくりたい」という一念で、事業計画も何もなしで突っ走ってしまったのだ。この志の高さが、損得抜きの心意気が、私たちの胸を躍らせるのである。

起業の醍醐味と苦労を、著者とともに味わうことができる。それにしても、この社長にして、この社員ありというか、個性豊かなメンバーたちが巻き起こすドタバタぶり、奮闘ぶりが、実に楽しい。また、「夢のある出版社。明るく、楽しい出版社」を目指す著者のユニークな組織論は、注目に値する。

例えば、起業した年の年末の財政逼迫は、気負うことなく、ユーモアを交えて、「結論だけを先にいえば、なんとか年を越すことができたのだが、『越せた』というよりも、実際のところ、かってに『越えていった』にすぎない。こちらの事情とは無関係に」と綴られていて、味わい深い。さらに、「ほとんど資金は尽きてしまった。一冊でも売れてもらわないと即、貧窮問答歌、という状況で、ぼくは苦しまぎれのプロモーション活動に打って出る」と苦労は続くが、落ち込むどころか、楽しんでさえいる感がある。

この東京・自由が丘のほがらかなミシマ社を訪れ、「一冊入魂」のミシマ社長や凸凹(でこぼこ)メンバーたちと膝突き合わせて本の話をしたくなってしまったのは、私だけだろうか。