榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

愛と暴力に痺れた青春の日々・・・【山椒読書論(44)】

【amazon 『女教師に捧げる鉄拳』 『小説家』 カスタマーレビュー 2012年6月21日】 山椒読書論(44)

まだ若かった頃、『女教師に捧げる鉄拳』(勝目梓著、講談社ノベルス。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)を初めて読んだ時の衝撃は強烈であった。数十年経った今でも、あの時の驚愕が鮮明に甦ってくる。

20歳の主人公は、トラックの運転手をしながら、プロボクサーとしてのランク・アップを目指し、練習に励んでいる。ロードワークの途中で、中学時代の英語教師に偶然、再会する。5年ぶりに目にした彼女は、かつて生徒たちの憧れの的であった大学を出たての眩しいばかりの先生とは程遠い、変わり果てた姿ではないか。

本人は語らなかったが、やがて、暴力団の罠にはまり、売り飛ばされた先の苛酷な環境下で仕事を強制され、そこから逃げ出してきたことを知る。

自分のアパートに暫く匿っていたが、再び暴力団に囚われてしまった彼女を主人公のもとに返すという条件で、ボクシングの八百長試合を迫る暴力団に、耐えに耐えてきた男の怒りが爆発する。

自分が住む世界とは、あまりにかけ離れた世界の話だが、命を懸けて愛する女性を守ろうとする熱い思いのほとばしりが私を貫いたのだ。これ以降、私は熱烈な勝目梓ファンとなり、彼の本を手当たり次第、読みふけったのである。青春の懐かしい思い出である。

勝目は芥川賞候補、直木賞候補になりながら、この分野では芽が出ず、やがてハード・バイオレンスの作家として一世を風靡することになるが、その人生の波瀾万丈ぶりは私小説『小説家』(勝目梓著、講談社文庫)に詳しい。

芥川賞や直木賞の受賞作品は全て目を通していた当時の私に、文学作品は世評に惑わされずに自分の目で選べ、ということを教えてくれたのが、『女教師に捧げる鉄拳』であった。