曽我兄弟の仇討ちに癒やされる浪花節人間の私・・・【山椒読書論(90)】
ドライヴ中にラジオから流れてきた三波春夫の長篇歌謡浪曲「曽我の討入り」を聞いた時、ジーンと胸が熱くなってしまった。
早速、CD『三波春夫 長篇歌謡浪曲 全曲集』(テイチク・レコーズ)を求めたのだが、「曽我の討入り」だけでなく、収められている、赤穂浪士の討入りに題材を得た「俵星玄蕃」、「赤垣源蔵」、「立花左近」にも魅せられてしまった。
このCDは、ヴィヴァルディ、バッハ、モーツァルト、中島みゆき、テレサ・テン、天童よしみ、川中美幸、山口百恵のCDとともに、嫌なことがあった時、聴くことにしている私の癒やしの定番となっている。
「曽我の討入り」では、たった二人きりで、厳重に警備されている陣屋に討ち入った曽我十郎祐成(すけなり)と五郎時致(ときむね)の兄弟が、五所舎人の五郎丸の情けに助けられ、遂に父の無念を晴らすのである。
幼い頃、夢中になって読み耽った講談社の絵本が復刻されていると知り、懐かしい『曽我兄弟』(布施長春画、千葉幹夫文・構成、新・講談社の絵本)を手にした。
「いまから八百年あまりまえのことです。伊豆国(静岡県)の領主のむすこ、河津三郎が、山で狩りをしたかえりみちのことでした。木かげから、弓矢で三郎をねらう、男たちがいました。この男たちは、三郎をころして、伊豆国をわがものにしようとする工藤祐経に、命令されていたのです」に始まり、その後の18年に亘る艱難辛苦が描かれ、遂に、「十郎が二十二さい、五郎が二十さいのときです。将軍頼朝が、富士山のすそので、大がかりなまき狩りをすることになりました。祐経をうつぜっこうのきかいです」と続く文章の切れのよさと、絵の凛々しさは、昔のままだ。ただし、浪曲と絵本とでは、五郎丸の役割が異なっている。
この事件は、源頼朝の寵臣・祐経と、祐経の一族で、曽我兄弟の祖父・伊東祐親、父・河津祐泰との間の所領争いに端を発していること、曽我兄弟の仇討ちには、黒幕・北条時政の秘かな使嗾・援助があったという説があることなどの史実はさておき、曽我兄弟が好きで堪らない浪花節的人間の私なのである。