榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

四季がある国に生まれた幸せを味わう本・・・【山椒読書論(172)】

【amazon 『日本の七十二候を楽しむ』 カスタマーレビュー 2013年4月5日】 山椒読書論(172)

日本の七十二候を楽しむ――旧暦のある暮らし』(白井明大文、有賀一広絵、東邦出版)は、手元に置きたい一冊である。

日本には、1年を4等分した春夏秋冬の四季の他に、24等分した二十四節気と、72等分した七十二候という季節の区分けがある。旧暦の下で暮らしていた時代、人々はそうした季節の移ろいを細やかに感じ取って生活していた。旬の物を食し、それぞれの季節の風物詩を楽しみ、折々の祭りや行事に願いを込めてきたのである。

旧暦というのは、明治5(1872)年までの長期に亘り使用されてきた暦である。

二十四節気は、立春、春分、立夏、夏至、立秋、秋分、立冬、冬至、大寒などのことである。七十二候は、「東風(とうふう)凍(こおり)を解く」、「桃始めて笑う」、「虹始めて見(あらわ)る」など、それぞれの季節の出来事を、そのまま名称にしている。そして、七十二候は田植えや稲刈りの時期など農作業の目安になる農事暦でもあったのだ。

例えば、新暦ではおよそ3月10日~14日頃の「桃始めて笑う」の候の見開き2ページには、「候のことば:庭先の春」「旬の野菜:新たまねぎ」「旬の魚介:さより」「旬の草花:桃」「旬の野鳥:かわらひわ」「旬の行事:春日祭」が記載されているといった具合である。

新暦ではおよそ8月2日~6日頃の「大雨(たいう)時(ときどき)行(ふ)る」の候は、「候のことば:蝉時雨(しぐれ)」「旬の魚介:太刀魚」「旬の果物:すいか」「旬の虫:カブトムシとノコギリクワガタ」「旬の行事:秋田竿燈(かんとう)まつり」となっている。

新暦ではおよそ10月3日~7日頃の「水始めて涸(かれ)る」の候は、「候のことば:稲の実り」「旬の魚介:とらふぐ」「冬の贅沢:ふぐちり」「旬の野菜:銀杏(ぎんなん)」「旬の草花:金木犀(きんもくせい)」「旬の行事:花馬(はなうま)祭」。

新暦ではおよそ1月20日~24日頃の「款冬(ふきのとう)華さく」の候は、「候のことば:二十日正月」「旬の魚介:赤貝」「旬の野菜:小松菜」「旬の草花:南天」「旬の野鳥:あおじ」「旬の日:初地蔵」といった具合だ。

「古来、人が何を大切にしてきたか、自然からどれほど恩恵を受けて生活を営んできたか、何に暮らしのよろこびを覚え、どのように収穫に感謝してきたか・・・、そうしたことを知り、伝え、受け継いでいきたい」という著者の思いが、全篇から伝わってくる。