不妊治療は大変で、費用がかかり、時間もかかるが・・・ ・・・【山椒読書論(180)】
『ああ不妊治療――8年・1000万円費やしたアラフォー漫画家の体当たりコミックエッセイ』(榎本由美著、徳間書店)は、そんじょそこらのコミックとは一線を画している。著者が漫画家としての仕事を続けながら、36歳から足かけ8年、不妊治療に挑戦した汗と涙の記録だからである。
著者の不妊治療の旅は、「この人との子供が欲しい! という気持ちはとても大きい・・・(だって好きだもん)」という思いからスタートする。
「(妻の台詞)終わらないすごろくをやっているようだ不妊治療。ゴール前でいつも生理! (夫の台詞)ふ、ふりだしに戻る・・・か・・・」、「や、やっぱり若いと妊娠もしやすいのかなあああ。ちょっと羨ましくもあり妬ましくもある他人の妊娠」――と、随所に本音が顔を出す。
「不妊治療っていうと、①大変なんじゃない? ②お金かかるんじゃない? ③時間かかるんじゃない? と思われがちですが・・・そのとおりです!」、「初めての胚移植(ET)と膀胱爆発」、「爆弾テロリスト新幹線に乗る(ウソ)受精卵を運ぶ女」――と、著者の持ち前のユーモアが重いテーマに救いを与えている。
「女性は生まれるときに原子卵母細胞というものを持って生まれます。体が成長し卵巣が発達するとこの原子卵母細胞を使って卵子を生み出すわけですが、精子と違って毎回製造されないのでだんだん数も減り年もとります。つまり女性が20歳になれば卵子も20歳、40歳になれば卵子も40歳と老化します」、「現代女性は仕事してるとどうしても結婚や出産が後回しになることが多い。ああ20代の時、卵子の老化、劣化の事実を知っていれば・・・」、「30代後半から40代にかけて私は不妊治療ライフを続けましたが、今どきだとこの世代で婚活している人が多いと聞く。40代で駆け込むように結婚してもそこから妊娠するのは難しかったりする。晩婚化が増やす不妊!」――と、最新の医学知識をきっちりと踏まえて描かれている。
最終章で、「家族の絆も確認できた。不妊治療をするに当たって大事なことは、①夫婦協力、②お金との相談、③他人と比べない、④無理しない」と述懐している。そして、最後のコマでは、温泉に浸かった妻と夫が、「結果はどうあれ、夫婦の絆は深まったと思うよ」と語り合うシーンが描かれ、私たちをホッとさせる。
巻末に、現在の不妊治療――タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精――が簡潔に、当然のことだがイラスト入りで紹介されている。
不妊治療をこれから始めようと考えてい人や不妊治療中の人だけでなく、妊娠はまだ先でいいやと油断している人、そしてそのパートナーにも読んでほしい一冊だ。